No.50『雨の日と彼女の髪』
散文/掌編小説
世界で一番雷が嫌いな私は、雨が降ると家にこもる。出先で雷に遭遇しては敵わない。もちろん、雨が降っても出掛けなきゃいけないこともあるのだけれど。
「雨、やまないね」
窓に貼りついて、外を見ていた彼女が言った。退屈げに長い髪を指先で弄んで、まるで他人事のように。
「そうだね」
私の髪は酷い癖毛で、雨が降ると湿気を含んで爆発してしまう。無理矢理ひとつにまとめたお団子も心なしか大きくて、私は雨に関係なく、サラサラの彼女の髪を手に取った。
「いいな。サラサラで」
「んふふ、お手入れしてますからね。雨に負けないように」
初めて耳にする台詞に目を見張る。
「もしかして、私のようにストレートの髪だと、いつも綺麗だって思ってた?」
彼女はいつも、私の心を見透かしたようなことを口にする。この時、私は初めて彼女が私の見えないところで、努力をしていたことを知ったのだった。
そりゃそうか。彼女の髪は、いつも綺麗だ。よく考えてみたら、雨の日ほど綺麗な気がするから、雨の日ほど念入りに手入れをしているのかも知れない。
まだ雨はやみそうにない。私は、この雨の中をこの髪で出掛けなければいけないことを思い、初めて彼女のように、努力をして来なかった自分を恥じたのだった。
お題:いつまでも降り止まない、雨
5/26/2023, 9:18:09 AM