気力がない

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誕生日プレゼントで渡したピアスが夕日に照らされて赤く光った。

「いつか大人になったらさ、」
靴紐を結ぼうとしゃがんでいた私は必然的に彼女を見上げる形になった。逆光で彼女の表情は見えなかったが、私を見つめている気がしてならなかった。
「一緒に住もう。そんで、配信でもしようよ。」
私を見つめたまま彼女は言う。私は立ち上がりリュックサックを背負い直した。
「顔出しとかは嫌だなぁ」
打ち合わせたかのようにピッタリと歩幅を合わせ、帰路を進む。
「えぇ、じゃー顔出しなしはどうよ。ゲーム実況とかいいんじゃない?」
私が夕日を眺めれば彼女も同じように夕日を見る。赤く染った青色は光と美しく反射させ、幻想的なグラデーションを作っていた。
「声出すのもちょっと嫌かな〜」
意地悪く口角をあげればエ〜と不満そうに呻く。冷えてきた空気に体を縮こまらせ、カーディガンでも羽織ればよかったなとぼんやり考えた。
「んじゃあ、声を加工して実況しよう」
閃いた!みたいな顔して、彼女は笑ってこちらを覗く。私は少し間を置き、笑って彼女に目をやった。
「んは、伸びなそう〜」
長く伸びていた影はもう随分薄くなっていた。冬が近い証拠か、夕日はその姿をすぐ隠し夜を待っている。
[題:愛言葉]

10/27/2023, 11:25:48 AM