「これは何に見えますか?」
白衣を纏うひとが、わたしにタブレットの画面を向ける。
「…ロールシャッハ・テストか何かですか」
即座に返ってきた「いいえ」は、部屋なのかすら曖昧なこの空間と同じくらい、無機質だった。
「これは、あなたの心の模様です」
冷静な頭の片隅が荒唐無稽と判断したのをよそに、わたしの本能が、その表現をそのまま呑み込んだ。
「つまり、わたしは今、わたし自身の心を見ているということですか」
「厳密には、そのうちの一つです。あなたの心が持つ一つの姿を、ご覧いただいています」
タブレット画面は腕によって物理的にスクロールされ、元より捉えられない顔が、とうとう隠れる位置まで到達する。
「“これ”を見て、あなたはどう感じますか」
再質問の一筆が、ブラックインクのような闇を空間からはみ出させ、白衣へと広げた。
どうやらあなたの存在すら、私の心の模様であるらしい。
4/24/2023, 5:06:20 AM