あやや

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 思えばあなたは、昔から難しい言葉を使う人でした。片田舎の、辺鄙な村に住んでいた私が、王国の使者から勇者だと告げられた時も、あなたがスキルなしの無能であると詰られた時も、あなたは不思議なことに落ち着いて、全てを分かっていたかのような顔をしていたものです。もうずいぶん前のことだわ。
 私は昔からの幼馴染のあなたと無理矢理引き離されて、国のために戦えなどと言われて剣をふるい、何匹もの魔物を殺しました。剣が獣の首元に入り込み、血を伴い肉と骨を断つ時までも、私はずっとあなたのことを考えていた。なのにあなたはいつまで経っても私の元には姿を現しませんでしたね。そのことを少し、私は恨んでいます。
 私があの村を離れる時、あなたにあげたペンダント。本当はその時に返して欲しかったのです。いつも難しい言葉を冷静な顔で話しては、私より一歩前に立っていたあなた。あなたがどこかに行ってしまったら私は進むべき道もわからなくなってしまいます。だからあなたのことを繋ぎ止めようと私は、あのペンダントを返せと言ったのです。次に会う時に、必ず返せと。
 なのにあなたは、期待する少女の心をほっといたままでなんの音沙汰もなしで、結局ペンダントを渡す意味もなかった。

 あなたはやっぱり、これを予期していたのでしょうか?そうなら、私はまたしもあなたを恨むことしかできない。私の血に染まった両手が、一生私の心から離れないだろうこと、あなたは知っていたのでしょうか。
 これが最後の戦いだと挑んだ勝負。そして、私の聖剣が断ち切った首。その首からこぼれ落ちた、ロケットペンダント。
 私とあなたの遠い記憶が詰まったペンダント。何故こうなってしまったのか、わからないけれど、私は恨むしかない。あなたを殺してしまった私を。



「君ってやつはしょうがないやつだなあ」
 失礼な。あれが最善だったと思うが?
「どこが最善なんだ。彼女、一生引き摺るぜ?」
 そんなことあるものか。最後に会ったのも、もう10年も前の話だ。忘れているだろうさ。
「いやいや、鈍いというのもここまで来ると酷いもんだ。君をそんな馬鹿だと思って転生させてやったわけじゃないんだがな」
 させてやった、か。お前が勝手にやったことだ。確かにありがたく乗じさせてはもらったが。
「僕はね、君を助けてやるためにこんなことまでしたんだけど。あの勇者の小娘を助けてやれなかったとか言って自殺したのだから、もいっかいやり直せば彼女も助けて君も生存すると思ったんだぞ」
 仕方ない。魔王を倒したらそいつが次の魔王になるだとか馬鹿な話にあいつが巻き込まれないためには、先に俺がなるしかない。それができたのはあの魔王だけで、俺が成り代わればそんなことは起こらないんだから。
「だからって彼女に倒させてどうする。そうならない道もあったんじゃないのか」
 それが一番効率的だったんだ。
「……………………はー………………」
 なんだその長い間は。ため息は。
「仕方ないな。もう一回やり直し。今度は幸せになってこい」
 はあ!?ま、待て、さっきのもかなり苦労したんだ。もう一回なんて————
「やだね。やってきな。うまく行ったら僕も呼べばいい」
 うわ、穴!?どこに繋がって……ぎゃぁああああああああ………
「……ふう、全くどうしようもない馬鹿。僕が神様になってもこの有様。どうすればいいんだ一体。神様に生まれ変わるのだって一筋縄じゃないんだぞ。ていうかめちゃくちゃ大変だったのに」
「制約を課して無理矢理神様になった身だから、あいつだけにしか干渉できないのも面倒な話だね。それでも、ほとんど不老不死の身で人智を超えたことができるこの身はありがたい……」
「あーあ、あっちの私が羨ましいよ、あいつにあそこまで想ってもらえるなんて。僕なんて正体すら気付かれないままかれこれ数千年はここにいるんだぞ」
「いつまで続くんだろうな、こんなことも。この変な口調にも慣れてしまって。前の面影全くなしだ」
「私、いつまでペンダントを待ってればいいの?辛いわね、恋する少女って」

7/18/2023, 6:38:42 AM