前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
その敷地内の空を、
大きくて強くてキレイなドラゴンが、
ツバサを一切動かさず、巨大な放物線を描いて、
宙を、舞っておりました。
ドラゴンは本当に、ほんとうに、とっても強いドラゴンでしたし、魔法も使えましたが、
さすがにツバサを動かさず空を移動するなんて芸当は、できないハズでした。
管理局の中を歩いていて、ひょんなことから「とあるフローリング」の中に入り、
それがすごく適温で、ドラゴンの本能が「ここは寝床だ」と強く主張しましたので、
フローリングにおなかをペタっ、尻尾もペタっ、
くっつけてしまって昼寝して、
そして、なにやら「どぉん!」デカい音と体への衝撃がありましたので、起きたらなんと、空の上。
『ん、 ……んん??』
ドラゴンは、それはそれは美しい、数学者や物理学者が見たら感動するくらい、完全に完璧な放物線を為して、現在減速上昇中。
BGMはクラシックがきっと最適解。
バッハの無伴奏チェロ組曲第1番だの、
G線上のアリアの管弦楽組曲第3番だの、
なんならパッヘルベルのカノンでも良いでしょう、
ともかく、美しく、シュールであったのでした。
『なんだ、俺は、今どうなっているんだ??』
ドラゴンの体は物理法則に従い、放物線の頂点に到達して、加速降下運動に移行しました。
眼下をぼーっと観察すれば、
風にそよぐ草原、川底まで透明な清流、小鳥の群、
お題の「揺れる木陰」もあります。
どうやらドラゴン、管理局の中に作られた、難民シェルターの緑地エリアを落下中のようです。
青い空に心地よい風、今日はとっても良い天気。
滅んだ世界、死んだ故郷からこぼれ落ちて流れ着いた難民たちは、皆みんなこの良い天気を享受して、
日向ぼっこしたり、釣りをしたり、カフェのテラス席でそよ風に当たりながらケーキを楽しんだり。
それはそれは、もう、それは。
美しい、尊い、平和と平穏に満ちておりました。
よくよく観察すると、ドラゴンの部下の人間、ビジネスネームを「ツバメ」という男も、
揺れる木陰の下、テイクアウトのコーヒーを飲みながら、この良い天気を堪能しています。
はぁ。 挽きたてコーヒーの香りを深く吸い込んで、小さな歓喜と一緒に、吐き出しています。
天を見上げたツバメと、ドラゴン、目が合います。
ツバメが、天上に上司ドラゴンがおったので、素っ頓狂の目が点々。開いた口が塞がらりません。
完全に、フリーズしています。
そりゃそうです。そして、ドラゴンも同じです。
加速落下中のドラゴンだって、自分がなんで放物線を描いて落下中なのか理解してないのです。
ツバメの個人端末に連絡が来て、ツバメがハッとして、その連絡に応答しようとしたあたりで、
ドラゴンは、「揺れる木陰」の発生源たる木を破壊して、地面に激突。
バキバキバキッ!! どぉぉぉぉん!!!!
「ぎゃおぁおおん!!」「どゎぁぁぁー!」
それまで放物線を描いておったドラゴンは草っ原に小さな小さな、すごく小さなクレーターを作って、
それで、ばたんきゅ、気絶してしまいまったとさ。
で、ここから先が、そのドラゴンを「射出」した張本人のネタバラシと小話。
「わぁぁぁぁ!部長さぁん、しっかりしてぇー!」
ぱたぱたぱた!
ドラゴンを追っかけて、管理局収蔵部の局員、「ドワーフホト」が走ってきました。
ドラゴンは法務部の、特殊即応部門の部門長。
前回投稿分のひょんなことにより、魔法かつチートなフローリングで寝ておったこのドラゴンを、
ドワーフホトはどうにかフローリングから出そうとして、しかしドワーフホトひとりのチカラではどうにもならないので、
経理部の親友の「スフィンクス」から、ドラゴンを移動させる機械を借りようとしたら、
そのスフィンクスが持ってきたのは、何をどう見てもクレーンではなく、カタパルト。
何をするつもりなの、ドワーフホトが聞く前に、
ニヨニヨ楽しそうな顔したスフィンクス、自走式カタパルトを作動させ、ドラゴンを発射台に固定。
「発射ァ!」音声コマンドと物理ボタンの二重セキュリティにより、射出したのでした。
どうしてこうなった(しりません)
「やぁー、飛んだ飛んだ!大成功だぜぇ!」
嬉しそうにスフィンクスが言いました。
「大成功、じゃないよぉぉ!」
頭を抱えてドワーフホト、言いました。
「わぁぁぁ!部長さぁん!ごめんなさぁぁぁい!」
「なんでホトが謝るんだよ。寝起きにはアレくらいが丁度良いって」
「アレくらいってぇ、『アレくらい』ってぇぇ」
片方は大満足の笑顔、片方は大騒動におおあわて。
揺れる木陰を作っておった例の木は、完全にバッキバキに折れてしまったので、
伐採されて有効利用が為されて、そして、キャンプ用の薪になり、夜を美しく照らしましたとさ。
7/18/2025, 3:10:01 AM