【灯火】
この村では、火を使えない。
遠い昔に、村は忌々しい炎によって焼き尽くされてしまったのだという。
それから人々はこう言うようになった。
「火は呪いだ、私達を殺す悪魔だ」
火が使えないから、電気で代用することがほとんどだ。
熱も光も、すべて電気。
マッチだって無い。
火が無いので火事も起こらない。
そんな村に、ある少女がやってきた。
マッチ売りの少女だ。
マッチ。忌々しい火を灯すもの。
当然、人々は少女に近づこうとしなかった。
通りのあちらこちらで、こんな言葉が聞こえる。
「呪い」「忌々しい」「何をやっているんだ」
「疫病神め…」「あいつは悪魔だ」
「今すぐこの村から去れ!」
少女はきっと気づいていた、
自分がよく思われていないことを。
それでも少女は立ち去らなかった。
来る日も来る日も、暗い通りに座っていた。
少女はただのマッチ売りでは無かった。
「愛」を売っていた。
愛の炎。灯火。
誰かを暗闇から救い出す炎を売っていた。
少女は色々な村を巡り、孤独を感じる人々にマッチを売っているのだった。
しかし、誰もその事に気付かなかった。
いや、気付こうとしなかった。
少女が「これは愛の炎です」と言っても、
「何が愛だ、悪魔め」と一蹴されるのだ。
誰も少女に聞く耳を持たなかった。
少女は次第に不満を募らせた。
「何で誰もマッチを買ってくれないんだ」
「私はこの村を救おうとしているのに」
「この村の人は皆冷たい…」
少女は限界を迎えていた。
遂に、彼女は我慢できなくなった。
少女は自分のマッチに火を付け、
通りにポイッと放った。
あっという間に炎は燃え広がり、道を黒く焦がし始めた。
黒煙の匂いが酷くなっていく。
少女は別の場所に移動して、同じことをやった。
村人の家に、火の付いたマッチを放っていく。
やがて、村中が黒く焼き尽くされていった。
昔と同じように。
残された村人はこう言った。
「やっぱり火は呪いだ、私達を殺す悪魔だ」
11/19/2024, 12:21:44 PM