自転車に乗って
夕暮れの商店街は主婦にお使いの子に、親子連れと買い食いの学校帰りの人々で賑わっている。
よくある色褪せた元はカラフルだったアーチを抜け、今日の戦利品をひとつ見つめる。
今日はコロッケにおばちゃんがオマケでくれたカボチャのサラダと家で待つ冷えた缶ビール。完璧な晩酌が出来そうだ。
満足気に頷く後ろから声をかけられ振り返ると、同僚が自転車から降りてこちらに歩いてきた。
「今帰りか?」
「うん、何買ったんじゃ?」
「コロッケともらったカボチャのサラダ」
「ええなぁ、ビールは?」
いつまで経っても絶妙に抜けない方言が今じゃ心地よくなっている。
「家でスタンバってる」
「最高じゃ。よし行こう」
「まてまて、なんでお前もくる感じになってるんだ」
「ええが、今なら自転車で送ってあげるだが」
「そもそもなんで自転車なんだよ」
「もらった」
「あ、そ」
ビールじゃビール!と鼻歌を歌いながら自分の買い物バックを奪うとカゴに入れ後ろに乗れと視線で促される。
色々と突っ込みたい事はあるのに、まぁ歩くより早いしな、とかバック奪われたしなとか言い訳を作って。
何より、彼と帰れるという事実に上がりそうな口角を必死に抑え、跨った。
彼の背中はやっぱり思ったとおり大きくて、熱くて。
夕陽に反射するほんのり浮かんだ汗が何だかとてもいけないものに見えて、視線を逃しても結局彼の背中しか見えなくて、それに少しだけムカついた。
だから、その背中にそっと頭をつけて一瞬ドキリと跳ねた背中に、いい気味だと微笑んで。
「…ビール飲んだら自転車乗れないぞ」
「……飲んでいいんか」
「…好きにしろ」
そう言ったら少しだけあがったスピード。
あぁ、今日はどうしようもなく酔ってしまいたい。
8/14/2024, 12:24:06 PM