わをん

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『とりとめのない話』

けたたましい銃声と耳をつんざくような爆発音の後、敵軍に向かって地上を走っていたはずが塹壕の中で目が覚めた。上から銃撃の音は聞こえない。俺の下敷きになっている奴や、周りに見える奴らに息があるようには思えなかったが、たまらず無事なやつはいないかと呼びかける。
「うるせえな。静かにしろ」
応えた声の主は少し離れた場所に壁に背を預けて座っていた。腹に布を当てており、その布は赤く染まって重たげだった。男が手招きをするので若干ためらったが傍へと近寄る。
「腹が痛くてたまんねぇんだ。なんか気が紛れるように話してくれよ」
近づいた男の顔中に脂汗が垂れており、そして顔色は失われつつあった。衛生兵を呼んだほうがいいのではないかという考えは過ぎったが、俺は話をした。自分がどこから来たのか。家族がなんの仕事をしていて兄弟は何人いるのか。自分の町では何が有名で何が美味いのか。男は最初わずかに相槌を打っていたように見えたが途中から聞いているのかどうかわからなくなった。痛みにしかめられていた顔は少しだけ安らかになったように思えた。

12/18/2023, 3:58:14 AM