「もしもタイムマシンがあったなら
すみれママのお腹の中に帰りたい」
「気持ち悪いこと言わないでくれる?」
私のママ、すみれさんは美人だ
パパが再婚相手として
すみれママを連れてきた時
私は人生で初めて恋に落ちた
パパのことは大嫌いだったし、
虐められてばかりの私の人生も大嫌いだったが
すみれさんと出会えたことで
パパも、私の人生も、この世も、
全てを好きになることが出来たのだ
「それにあなたは私のお腹から生まれてないでしょ、それにタイムマシンって腹の中に入れるの?」
すみれさんがベリーショートの髪をかきあげる
パッチリとしているのにどこか涼し気な目元が明らかになって
見ているだけでドキドキするくらい色っぽい
ハスキーな声が私の鼓膜を震わすと
私の心臓も更に震え出す
「もしもタイムマシンがあったなら私は元彼とぉ〜付き合う前に戻ってえ〜」
バカキャラをウリにしている女モデルがぺらぺらとテレビの向こうで話している
「もしもタイムマシンがあったなら、いつに行きたいか」というテーマで話題の芸能人たちがトークを繰り広げ始めたので、
私も同じように考えてみた結果が
さっきのそれだ
「タイムマシンがお腹の中まで戻れるかはわからないけど……もし、すみれさんが本当のお母さんだったら、すみれさんはもっと私の事好きになってくれたかな」
欲張りで子供っぽい私の発言に対し、
すみれさんはふわりと穏やかにまるで聖母のように笑みを浮かべて言った
「欲しがりだね、私は血が繋がっていなくてよかったと思うけど」
「どうして?」
「だって本当の子供とはさすがに"こういうこと"出来ないもの」
オニキスのように漆黒で
全てを見透かしたような瞳と目が合う
そしてその視線は口元へ
左の口角がクッと上がるのは
すみれさんの癖だ
聖母の笑みから色気が溢れはじめる
「すみれマ……」
言い終えるより早く
シャネルのNo.91の口紅が私の唇にうつった
「今日パパは遅いって」
タイムマシンなんていらない、
私はすみれさんがいればそれでいい
熱い体温の中、私はひたすらにそう思った
7/22/2023, 2:58:55 PM