『羅針盤』
陽のあたる出窓であなたは午睡する。
太陽は東から昇り、ゆるゆると南天低きを巡って西に沈むだろう。冬のやわらかな陽射しが白い毛並を撫でる。
私もあなたを撫でようかと、ソファから立ちあがって近づいた。
気配に聡いあなたが眼をうすくあけて、また閉じる。
その、それだけの仕種に、得がたい信頼があった。
毛並にふれた。
猫の体温が私の指を舐めた。
尻尾が、ぱた、と出窓の縁をはたいた。
そして私の手を撫でかえすように絡んでくる。
ちいさなこの生きものの、この親しさ。許容。信頼。
尻尾がまた振られる。
この白く長い尻尾は、間違いなく、猫を慈しむという感情へ私を導いた。
猫を、ちいさな生きものたちを、ほかの生命を、そしてきっとひとをも。
慈しむ。
愛おしむ。
そんな優しい世界へ私を導く羅針盤。
1/21/2025, 11:03:10 AM