159.『たとえ間違いだったとしても』『今日の心模様』『ルール』
論理クイズに『天国への道』と言うものがある。
内容は以下の通り。
『目の前に二つ道がある。
一つは天国へで、もう一つは地獄へと繋がっている。
どちらに正解かを知っているのは、目の前にいる天使と悪魔だけ。
それぞれの道がどちらに繋がるかは、彼らに聞くしかない。
だが質問には以下のルールがある。
・質問は一回きりで、答えが『はい』・『いいえ』のいずれか。
・天使は必ず真実を述べ、悪魔は必ず嘘をつくが、見た目は瓜二つで見分けがつかない。
・たとえ間違いだったとしても、道を引き返すことは出来ない。
この状況で、確実に天国のへの道を知るためには、どのような質問をしたらよいだろうか?』
――というもの。
割と有名な問題で、初見ではまず正解にたどり着くのは至難の業だ。
もちろんフィクションであり、現実の死後がクイズで決まるわけではない。
しかし、それに似合うだけの難易度があるのも事実で、答えも『なるほど』と言いたくなるほど理に適った物であった。
初めてこれを聞いた時、『世の中には凄い事を思いつく人がいるものだ』と感心した。
――のだけど……
「まさか実際に目にするとはなあ……」
天寿を全うし家族に囲まれながら目を閉じたはずなのに、気がつけば私は分かれ道の前に立っていた。
そこに天使と悪魔らしき存在が鎮座していて、こちらをじっと見つめている。
死の間際に脳が見せる幻覚とも思ったが、私の魂が『ここが運命の分岐点』だと告げていた。
正直理解しがたい状況だ。
だが、これはチャンスでもある。
私はは悪人のつもりはないが、無条件で天国に行けるほど善人でもない。
半ば諦めていた天国行きが、自分で勝ち取れるチャンスが巡ってきたのだ。
自分の運の良さに感謝する。
そして、私は逸る気持ちが抑えきれず、意気揚々と天使と悪魔の前に立った時、ある重大な事実に気づいた。
「……なんて質問すればいいんだっけ?」
答えをドわすれした。
そりゃそうだ。
こんな問題で、本当に天国行き決められるとは夢にも思わない。
感心こそすれど、真面目に解答を考察したわけでもない。
そして難易度の高さゆえに、自分の頭ではどれだけ考えても何も思い浮かばないであろうことも、悲しいかな、確信していた。
「仕方がない。
知っている人が来るまで待とう」
この問題に時間制限は無い。
よって、焦って二分の一に賭けに出る必要はなく、『待つこと』こそがが現時点における最適解と思われた。
天使と悪魔には悪いが、こちらも天国行きがかかってる。
たとえ彼らに不信な目で見られようとも、絶対に勝てる手段を取ることにした。
――のだが……
「あー、私もよく覚えてないです」
残念ながら、次にやって来た人も答えを知らなかった。
一応問題は知っていたらしいのだが、私と同様、真面目に考えてなかったらしい。
だが責めても始まらない。
さっさと気持ちを切り替え、新顔の彼と一緒に、次の人を待つことにした。
――しかし……
「スマン、オラも分かんねえや」
その次も知らなかった。
そして――
「拙者も知らぬ」
「吾輩も」
「あたいも」
「おいどんも」
誰も知らなかった。
さすがに焦りを感じないこともなかった。
しかし私は『確実に』天国に行きたいので、逸る気持ちをなんとか抑える。
功を焦って、地獄に行ってしまっては元も子もない。
一応話し合っが解答が導き出せず、結局、全員で待機を続けることにいした。
もちろん正解を知らなくても、カンで進むことは出来る。
だが人間とは欲深い生き物だ。
『確実に行ける方法がある』と知っていながら、『二分の一』という博打に出る勇者など一人もいない。
いつか来るであろう救世主を、私たちは心待ちにしていた……
――だが……
「知っている人がこない……」
それからも、たくさんの人を迎えた。
けれど誰一人として正解を知っている人がおらず、いっこうに天国へと行くことが叶わない。
誰もが夢見る天国行き。
しかし、まったく天国行きの目途が立たないことに、人々の気持ちは暗く落ち込んだ……
――という事は全然無かった。
なぜなら、人々には『天国行き』が確約されており、何も不安に思う必要が無いからだ。
むしろ天国行きを祝って毎日宴会が行われる有様であり、現場はこれ以上ないくらい盛り上がっていた。
宴会が最高潮に達したとき、ある青年が感極まってこう叫んだ。
「こんな楽しいこと、生きている時には一度もなかった!」
彼はきっとこれまで辛い人生を送って来たのであろう。
目尻に涙を貯めながら酒を煽っている。
それを見た私は、居ても立っても居られず、ジョッキを天に掲げ、叫んだ。
「私たちの輝かしい未来に!
天国に乾杯!」
「乾杯!」
なんて素晴らしい日だろう。
青年ほどじゃないが、私もここで充実した時間を過ごしていた。
私の人生は恵まれたものだと思っていたが、本当の幸せは死んだ後に待っていたらしい。
いや、もしかしたら、天国は道の先にあるものではなく、本当はここが天国なのかもしれない……
そんな事を考えながら酒を飲んでいると、背中に突き刺さるような視線を感じた。
驚いて振り向くと、そこには静かな怒りを携えた天使と悪魔が立っていた。
私がここに居座って以降、ずっと苦々しい顔をしていた彼ら。
『今日の心模様は一段と悪そうだ』と思っていると、二人は同じ道を指差しながら、声を揃えて叫んだ。
「「あっちが天国の道だから、とっとと行ってください!
仕事の邪魔です!!」」
PS
下に解答例をかきます。
ネタバレ注意。
・解答例
<あなたに『この道は天国への道ですか?』と聞かれたら、『はい』と答えますか?>
・解説
天使の場合は、素直に答えてくれるので問題ない。
◇道が天国行き
1.前半の質問(天国か?)に、天使は正直に『はい』と答える。
2.後半の質問(『はい』と答えるか?)に、天使は正直に『はい』と答える。
◇道が地獄行き
1.前半の質問(天国か?)に、天使は正直に『いいえ』と答える。
2.後半の質問(『はい』と答えるか?)に、天使は正直に『いいえ』と答える
少し複雑なのが悪魔の場合。
悪魔は『質問に対する答え』に更に嘘を重ねてくる。
◇道が天国行き
1.前半の質問(天国か?)に、悪魔は嘘をついて『いいえ』と答える。
2.後半の質問(『はい』と答えるか?)に、悪魔は嘘をついて『はい』と答える。
◇道が地獄行き
1.前半の質問(天国か?)に、悪魔は嘘をついて『はい』と答える。
2.後半の質問(『はい』と答えるか?)に、悪魔は嘘をついて『いいえ』と答える
つまり、『はい』なら天国、『いいえ』なら地獄という結論になる。
質問を入れ子構造にするのがミソ。
なぜこんなことが起こるかと言えば、悪魔は『必ず』嘘をつくので、嘘に嘘を重ね(二重否定)結果的に真実となるから。
もし、天国への道が分からなくなったら、ぜひこのことを思い出してくださいね。
5/2/2026, 7:40:54 AM