可哀想と思うのは私が人間だからだろうな
古い骨董品を扱う老舗が店をたたむことになったらしい。骨董品屋の中でも特に古いものを扱っているので、マニアですら匙を投げるような状態のものや用途不明のものが多い。
でも晩年は買取業のようなものもしていたので比較的新しいものも多少ある。苦肉の策ではじめた経営に失敗のだろうな、という印象だった。
広い建物なのでこれだけ客が押し寄せても歩くのに不便はない。いつかぶりの盛況ぶりに店はてんてこ舞いであるが、店主は嬉しい悲鳴だと笑っていた。近所でよくおやつだのおもちゃだのもらっていた私が幼い頃から変わらない気のいい爺さんだ。
店内を一緒にゆっくりと歩き回りながら様子をみて回る。顔なじみに挨拶をし、品のない客を追い返し、乱れた陳列を整える。
お前には特別に、と奥の間へと連れていかれた。店の手前は安価な物を置き、奥に行くほど高価で貴重な物が置いてある。だから客足も少しずつ減って、特に奥の間に通されるのは常連か太客くらいのものだ。
金は持っているのか、と聞かれて年齢に千をかけた分しか持ってないと答えるとしょっぱい顔をされた。ここでケチだと言わないのがこの爺さんのいいところである。
年配の店員が呼ばれ、これまた古く使い込まれた品々が並べられた。わらわらと古い着物をきた男たちも一緒に来たのだが、台の向こうに座って私を観察してくる。
気にせず爺さんの解説を聞きながら商品をみる。私でも買える価格帯のものばかり選んだから使い込まれた日用品くらいしか出せないと残念そうに言われたが、丁寧に扱われていたようで欠けや剥げはあっても壊れているものはない。
悩んだ末、飾りが一部欠けた簪と褪せた一輪挿しを選んだ。派手さはないが造りが複雑な簪は見応えがあるので、青磁の褪せた色の花瓶によく映えると思ったからだ。
爺さんは2人の男を呼んで、私についていくよう言った。世間知らずの若造をよくよく頼んだぞ、と言って裏口から帰された。2人の男と共に説明もなく、だ。
ポカンとしていると、背の高い方の男にベンチに誘導された。そこに座ると両脇に男たちが座ってきて、どうしてそれを選んだのか聞いてくる。
そのまま会話をしていたのだが、爺さんと話しているかのように話しは尽きず延々と昔話や品物自慢を聞かされた。
分かったのは、ある夫婦が恋人時代に送り合った品物同士で悩みに悩んで手に取った一級品だったということ。何代にもわたって使われたが、決まって晩年は一輪挿しに簪を飾るという使われ方をしたらしい。
「あの子が目をかけているのなら間違いないさ」
薄々気がついてはいたが、後にも先にもこの2人の男をみることはこれきりだろう。想い想われた主人らの縁から離れてしまうのだ、ただ寂しそうだというのはあまりにも安っぽい感想に口を噤む。
選ばれるのを待つしかない彼らに私ができるのは大切に扱うということだけ。
あなた方は運がいい、今日はその逸話にぴったりの日だ
遠い目をした彼らに今日という日がもつ意味を教えてやる。チョコレートではなくても贈ることに意味があって、贈り合いなら余程お互いのことを考えていたのだろうと微笑ましくなる。そういう日なのだ。
少しでも彼らの救いになれるように、ね。
【題:バレンタイン】
2/15/2026, 12:05:52 AM