卵を割らなければ

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嗚呼

雪が降っていた。私はひとり雪景色のなかにたたずんでいた。
ついさっきまで誰かがそばにいたような気がしたが、誰もいない。足跡がうっすらと残っている。
――嗚呼、なんと美しい景色だろう。白い。見渡す限りの全てが白い。
静かに雪が降り積もる。

やがて辺りは暗くなり、そしてまた明るくなった。雪は降り続いている。私は相変わらずひとり雪景色のなかにいる。
いつからこうしているのだろう。わからない。ただ白く美しい雪を眺めていられれば、それでいいような気がしている。
――嗚呼、満ち足りている。

太陽がまぶしい。
雪は日の光にきらめいて輝いている。暖かく優しい風が私を包んでいる。溶けていく。全てが。
――嗚呼、永遠に続く命と思っていた。儚くも消える定めとはつゆ知らず。


村の子どもはふと思い出し、幾日か前に作った雪達磨を見に行ったが、まわりの雪と同様、溶けてなくなっていたので少しがっかりした。遠くで仲間の呼ぶ声がして、子どもはぱっと駆けだしてゆく。村はもうじき春を迎える。

3/9/2025, 4:34:31 PM