153.『それでいい』『星空の下で』『君の目を見つめると』
「綺麗な星空だ。
そう思わないか、芽衣《めい》」
幼馴染の鉄平が、暗闇の中で私に話しかける。
暗くて顔は見えないが、鉄平はきっと、子供みたいに目を輝かせている事だろう。
鉄平は、宇宙が好きだ。
星空の下で、遠い銀河に思いを馳せることが、彼の数少ない趣味の一つだ。
定期的に、星が良く見えるキャンプ場を予約し、テントを張って本格的な天体観測に耽っている。
望遠鏡だって、鉄平が必死にバイトして買った高級品。
彼の本気度がうかがえる。
私も、鉄平ほどじゃないけれど星を見るのは結構好きだ。
カレンダーに印をつけるくらいには楽しみにしていた。
数日前までは……
「元気ないな、大丈夫か?」
鉄平が私の顔を覗き込みながら、心配そうに声をかけてくる。
実際、私はいたたまれなさで死にそうだった。
私は目が泳ぐのを自覚しながら言い訳をひねり出す。
「なんでもないよ、『ちょっと寒いな』って思っただけ」
鉄平は訝しげに眉を寄せたけど、それ以上詮索する事は無かった。
聞かないのは薄情だからではなく、彼なりの信頼の証なのだ。
『芽衣には話せない事情があるんだ』って。
長い付き合いだが、なんでも情報を共有している訳ではない。
お互い秘密の一つや二つある。
そして、今回においてそれは正しい。
こんなこと、鉄平には絶対に話せないから……
私は鉄平が好きだ。
男性として、心から愛している。
けれどこの思いを伝えるつもりはない。
鉄平にとって、私は気の置けない友人でしかないことは分かり切っている。
だからずっと隣にいられるように、この淡い恋心を隠したまま、よき友人であろうと心がけた。
なのに!
先日、二十歳の誕生日に初めて飲んだお酒に飲まれ、鉄平に『好き』と言ってしまった。
まさか自分があそこまでアルコールに弱いとは!
あの時の記憶を思いだすたびに、私は叫びそうになってしまう。
幸いなことに、私が『嘘です、酔っ払いのたわ言です』と言い続けたおかげで、なんとか誤魔化せた。
誤魔化せるのもどうかと思うが、尋常じゃない酔っ払い方をしていたので、納得したようである。
キスまでねだったんだよね、私。
と言う訳で、鉄平は私の恋心に感づいた様子もなく、変わらずいつも通りに過ごしている。
……なんで普通なのよ、おかしいじゃない。
確かに嘘とは言ったけど、告白されたら意識するもんじゃないの?
バレなくて良かったと思う反面、何もなければそれはそれで悔しい。
鉄平の鈍感め!
私の繊細さを見習え。
「やっぱり調子が悪いんだろ」
私が勝手に憤っていると、鉄平がポツリと呟いた。
「無理して本格的に調子を崩したら大変だ。
テントの中で休むといい」
『そんなことない』
そう言いいたかったのに、言葉が出なかった。
鉄平が、私をまっすぐ見据えていたからだ。
……あの事件以来、鉄平の目が見れない。
意識しすぎているのは私の方なのだ。
「やっぱり、調子が悪いんだな。
顔が赤いぞ」
『君の目を見つめると、体が熱くなってしまうんです』。
それが言えればどんなに楽か。
何も言えず、金魚のように口をパクパクさせてしまう。
「くそ、かなり悪いみたいだな。
じっとしてろよ」
言うが早いか、鉄平の大きな手が私の体に回る。
ふわっ、と浮遊感。
……お姫様だっこだった。
「ちょっと、鉄平!?
恥ずかしいから下ろして!」
「馬鹿、暴れんな!
落ちたら危ないだろ」
「ううーー」
「ようやく静かになったか……
それでいい、体調悪いんだから大人しく運ばれてろ」
さっきとは別の意味で、顔が火が出そうなほど熱くなる。
少女漫画でよくある『好きな男の子にだっこしてもらう』。
小さい頃に憧れた少女漫画のワンシーン。
でも、実際にはこんなに恥ずかしいとは……
私が顔を手で覆って、恥辱の時間に耐えている内に、優しく地面へ下ろされた。
「ほら、寝袋に入って寝ろ。
冷えないようにな」
そう言って、テントの隙間から去っていく彼。
暗くてよく見えなかったけれど。
……鉄平の耳元も、私と同じくらい赤く見えた。
4/14/2026, 11:53:26 AM