『楽園』
とある森の中には、楽園と呼ばれる場所があるらしい。
辺り一面花畑が広がっていて、いつでも青空が見える場所。天国、と呼ばれるにふさわしい場所。
だけど、そんな場所には魔女がいるの。
怖い怖い魔女が、番人の代わりに住んでいるんだって。
楽園を独り占めにするなんて、なんて酷い魔女だろう。
きっと、とっても恐ろしい顔をしているんだわ。
きっと、とってもおぞましい魔女なのだわ。
そんな噂話を聞いた子供が、楽園を目指して森へと入っていった。
一つは、楽園に行きたいという欲望のため
もう一つは噂の、酷く怖い魔女をひと目見たいという、好奇心のため。
子どもは臆せず進んでいく。
ざわざわと木々が揺れて、木の葉で陽の光が遮られる。
森がざわざわと音を立てて追い出そうとしても、子供はそのまま進んでいった。
子供はふと、木の根に引っかかり転んでしまった。
立ち上がった子供の膝は、擦り傷で赤くなっている。
森の木陰でひっそりと見張っていた魔女は、もう見ていられなくて仕方なく姿を現した。
「……帰れ。帰らないというのなら、お前を食ってやる。」
黒いローブに身を包んだ魔女は、できる限り低い声を作ってそういった。
子供は不思議そうに魔女を見て、ぱっと笑顔になった。
「ママ、ここにいたんだ!いっしょにかえろ!お家でね、パパもまってるよ!」
ぴょこぴょこと飛び跳ねる勢いでそう言って、魔女の腕を引いた。
「……あなたの母親ではないから、ほかを当たって。」
魔女は子供が掴んできた手を離して、冷たくそういう。
「なんで?いっしょにお家かえろうよ!」
何も知らずに笑顔でそういう子供を、魔女は追い返した。
あなたの母親ではないといって、森の外へ。
後日、こんなことがあったよと子供が父親にそう伝えると、父親は悲しそうな顔をしていた。
楽園の番人は、楽園に行くことのできるものに限られる。
それは、動物だったり、人間だったり、いろいろと。
唯一その全てに共通しているのは、もういない人だけ、という点。
ルールなんて外に伝わっているわけもなく、魔女は今日も番人としての仕事をこなしていた。
監視をして、亡くなった人以外は追い返す。
疲れて少しだけ休みを取っている魔女に、一人の来客が。
「……お母さん、久しぶり。もう帰ってきてなんて無茶言わないから、少しだけ、お話聞いてもいいかな。」
魔女は頷いて、彼女とお話をした。
とある楽園の、少し外のお話。
4/30/2026, 2:52:22 PM