雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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―「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。その人のことを思い浮かべて、言葉を綴ってみて。―

ゴールデンウィーク間近の週末、
母方の祖母の家を訪れていた。
いらっしゃい
よく来たね
遠いとこからご苦労さま
と、祖母は歓迎と労いの言葉を掛けてくれた。
祖母の家に行けば当たり前の光景だが、
今日は、いつもとは違う、緊張感を
帯びていた。
そう、今日は祖母の旦那さん、
つまり私の祖父の命日なのだ。

その後は特にどうということもなく
各々で自由に過ごしていた。
すると、棚を整理していた祖母が
声を上げた。
見覚えのないDVDが出てきた
と。
特に大きく反応を示したのは私の弟で
“謎のDVD”に興味があるようだ。
暇つぶしとしては最適だということになり
早速DVDプレーヤーに円盤を差し込んだ。

テレビに映ったのは昭和時代の
ビデオテープか何かで撮った映像と
思われる、古めかしく荒い画像のもので、
小学生時代の母や、その友人や近所の人たちで
キャンプをしている場面だった。
そこには祖母も母の弟も映っていた。
つまりは…
祖父も映っていた。

それを見たその場の人たちみんなは
それぞれの反応を見せた。
このDVDが見つかったときから
そこまで反応していなかった私の父は
いつも通りの無表情だったが、
その目はいつもより少し見開かれていた
ように見えた。
古めかしい映像が物珍しく、
興奮していた私の弟は
その場の空気なんて気にもせず、
あ!さっき映ったおじさん、じいじに
似てるー!ねーねーおかあさん!
あの人ってじいじ?
なんて、上擦った声で騒いでいた。
一方、母は息子の言葉を他所に
目を見開いてあんぐり口を
開けていて、その瞳は微かに揺れていた。
それに対し、祖母は
あらほんと
じいじも映ってるわねぇ
こんなに若いじいじ、久しぶりに見たわ
この頃の髪型の似合わなさと言ったら!
あぁ…懐かしいわねぇ
なんて1人で昔の記憶に入り浸っている。

祖父は暖かい人だった。
いつも笑みを浮かべていて、
その寛大さの表れなのか、
私は祖父が怒っているところを
見たことがない。
私に花札や坊主めくりを教えてくれた祖父。
囲碁に集中している途中に話しかけても
拒んだりせず、
一緒にやるか?
と笑いかけてくれた祖父。
本当に面白い人だったし、知的な人でもあり、
他にも思い出がたくさん。

気づけば緊張感は消え、
リビングはいつも通りの暖かな
雰囲気に戻っていた。
みんな清々しく穏やかな表情でテレビを
見つめていた。
それは今は亡き祖父がつくりだした和やかさ。

伝えきれなかった感謝を今、
天に向かって呟いた。
ありがとう、おじいちゃん

5/3/2023, 1:41:08 PM