Ichii

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意味がないこと

幼い頃から長い髪に憧れてから、ずっと肩から少し伸びた位の髪の長さを維持している。幸い髪のくせが少ないため、どうしようもないくらい絡まってしまったり跳ねてしまうなんてことはあまり無かったが、代わりと言わんばかりに髪に結び目が出来ることが多かった。それが幼い私には気に食わなずに、いつも髪を根元から引き抜いていた。それを見かねた母に言われた言葉が今でも記憶に残っている。髪に結び目が出来るのは、神様や妖精さんの悪戯なんだよ、って。それを聞いた私は何故か少し嬉しくて、髪に結び目が出来てしまうのは嫌な出来事だけど、悪戯なら仕方ないとこれまでの不満が嘘のようにすとんと腑に落ちたのだった。
時は流れて大学生のグループワークの時のこと。四人グループであったが、どうやら私以外は交流があったらしく、少し居心地の悪さを味わいながら、それでも場に馴染もうと会話に勤しんだ。
「最近髪が絡まりやすくてさぁ〜」
「まじぃ?めちゃやじゃんw」
居ないもののように扱われつつも、髪が絡まるという悩みには私も乗れる話題だ、とふと思い出した髪を結ぶ妖精の話をした。
不意にこれまで此方を一瞥もしなかった三人の目線が私に集まり、値踏みするように視線を投げかれたかと思えば、ぶ、と可笑しなものを目にしたように噴き出した。
「なにそれぇ、きいたことなぁいw」
「妖精さんてw」
「ちょっとぉー、妖精さんに悪戯されたらしいよぉ」
けらけらと三人で身を寄せて笑う姿は、此方を明確に揶揄するもので、場に馴染もうとした自分の努力は徒労であったことを悟った。馬鹿にされている。不調のないはずの心臓に針が刺さったような感覚があったが、それよりも、何だか大切な宝物を踏みにじられてしまったような、やりきれなさにすぐさま目の前の人のかたちによく似たバケモノたちから逃げ出したくなった。

11/9/2023, 8:57:41 AM