一ノ瀬

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 小さい頃から日記を付けている。書くことがなくて三日で飽きたり、そのときの気分によってノートを変えたり、誰かへの悪口をこそこそと書き連ねたりしながら、なんだかんだ今日まで続けてこられた。積み重なったノートの山を見るとどこか達成感すら抱く。
 その中に一冊、特にボロボロのノートがある。ものすごく古いものというわけではなく、どちらかというと最近のものだ。それなのに、そうとは思えないほど傷だらけで真っ黒なのは、それ相応の理由がある。語るほどのことでもないけれど。
 手に取ってページを捲る。全体の三分の一しか埋まっていないそれは、ほとんどが同じ四文字で、自分自身に向けた呪詛が並んでいる。その上から殴り書きのように塗り潰そうとした跡も。書いた字がまともに読めなくなった辺りで、このノートは使われなくなる。
 次のノートの最初のページには、ただ一言。
「かみさまは いた」
 結局このノートもすぐに使わなくなってしまったけど、これを書いたときのことを、僕は鮮明に覚えている。その喜びも、感動も、眩しさも、全部覚えている。
 あの日、僕の前に現れた神様は、僕の狭い世界をめちゃくちゃにした。暴力的なまでのそれを、僕は救いと受け取った。それだけの話で、それ以外は必要ない話だ。
 だから僕はその日以前の日記をすべて焼くことにする。せっかくなら焼き芋でもやろう。先輩も喜んで来てくれるだろうから。

1/18/2026, 4:20:29 PM