道端の石ころだったんだ。俺は。
誰も目にも止めない。誰も気にも止めない。蹴り飛ばしたとて、そこに転がっている俺が悪いのだと言われる存在。
何の変哲もない。何の名前も無い。ただの石ころだったんだ。
だが、お前はそれを拾い上げ、あろうことか大事に大事に磨き上げた。名を付け、愛おしそうにそれを呼んだ。
お前にとっちゃ拾い上げた数ある石ころの内の一つだったのかもしれない。もっと出来の良い、比べ物にならない宝石を拾ってたのかもしれない。
けれど、俺にとっちゃ拾い上げてくれた手はお前しか知らない。唯一無二の存在だった。
拾い上げ、包み込み、守ってくれたのは、お前しかいないんだ。
俺の知りうる世界の全てだった。
そんなことを言ったら、お前はどんな顔をするだろうか。重たい、なんて言うだろうか。こんな重たい石ころ、捨ててしまいたいだろうか。
それでも俺は。俺は—心から願う。
友よ、俺はお前の一番の宝でありたい。と。
***
あの日のことは良く覚えている。晴れやかな気分だったことも。
なのに、どう説明したらいいか未だに難しい。ただ、俺にとって凄く嬉しい出来事だった。それだけは確かだ。
けれど、今まで誰にも言えなかった。なんだろう、秘密にしていたかったのかもしれない。
砂浜を散歩していたら、たまたま見つけた綺麗な貝殻。それがアイツの第一印象だった。
少し欠けてはいるけれど、綺麗な色で陽に当てるとキラリと輝いた。
角度を変えその煌めきを見て「ああ、ココに居たんだ」と何故か嬉しかった。ピッタリはまる片割れを見つけた、そんな気分だった。
だから誰にも言えなかった。本当は皆に見せびらかして自慢したかったんだ。「すごいお宝見つけたんだ!」って。でも、そんなことしたら、誰かに取られちゃうかもしれないから、言えなかった。
兄ちゃんだから、いつだって大事なものは弟や妹に譲ってばっかりだったから。別に嫌じゃ無かったけど、何故かこの時は誰にも取られたく無かったんだと思う。だから、仕舞った。心に鍵をかけて、大事に、大事に…取られませんようにと。
でも、今はハッキリと言える。
親愛なる友よ。お前は俺が見つけた最高の宝だ!と。
≪宝物≫
11/21/2024, 2:58:54 AM