ほおずき るい

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「お嬢様、イヤリングは耳が痛くなるからと苦手ではありませんでしたか?」
「うん。でもね、このイヤリングは蒼樹様が贈ってくださったの!」
素敵でしょう?と髪を耳にかけて見せてくれたきらりと輝きを放つイヤリングはそこらの雑貨店で売っていそうな安物の大量生産品だった。お嬢様ならすぐ分かるはずなのに、あえてつけるほどあの鼻持ちならない小癪なガキが好きなのか。
そう思うとはらわたが煮えくりかえりそうな気がした。
なぜお嬢様はあんな奴のために心を砕くのだろう。

毎年返されないプレゼントをお嬢様自ら見繕って「気に入っていただけるかしら」と不安そうに贈ったプレゼントに対してお礼の手紙一つよこさないで、初めて贈ったものがこんな安物だなんて。そんな不義理な男のためにお嬢様が御心を悩ませているだなんて許せない。

俺はいけないと思いつつもお嬢様が大切にされているイヤリングを一つ隠し持った。片方だけになってしまったイヤリングならお嬢様もおつけにならないだろうと思って。

「ねえ伊月、わたくしのイヤリングを知らないかしら?どこにもないの」
「イヤリングですか?いえ、私は見ておりませんが...どこかに落とされたのかもしれません。見つけ次第すぐにお渡しいたします」
我ながらよくもまあ嘘八百を並べ立てられるものだと感心する。お嬢様が悲しむ姿に心が痛まないわけではないが、少しでもあの男との関わりを消したかった。
お嬢様を幸せにできない男の心無いプレゼントなど汚らわしくて清廉なお嬢様に触れて欲しくなかった。
服の上から握ったイヤリングを握りつぶさんばかりに握る。こんなものでもお嬢様のお気を引けると言うのに、なぜ俺はこれっぽっちもお嬢様の御心に留めていただけないのだろう。

片方無くなればお嬢様はイヤリングをおつけにならないと思っていたが、お嬢様は変わらずあのイヤリングを使用し続けた。
毎晩イヤリングを外した後に残る痛々しい赤い跡を見るのが居た堪れなかった。

2/18/2025, 8:08:17 AM