小首を傾げて君が言うから。
「どうしてもあの靴が欲しいの·····」
赤いリボンがついたヒールの高いパンプス。
僕は難しい名前のそれを大事そうに抱き締める君の笑顔に満たされた。
上目遣いで君が言うから。
「どうしても食べてみたいな、あのケーキ」
ピンクのクリームで薔薇を象ったケーキを、僕は君の誕生日に買って驚かせた。
君の「どうしても」に僕は勝てない。
パンプスも、ケーキも、ネックレスも、ワンピースも、君が「どうしても」という言葉と共に欲しがるのなら、いくらでも買ってあげたかったし、そうしてきた。受け取るたびに君は目をキラキラと輝かせて、にっこり笑って「ありがとう」と言ってくれた。
君の「どうしても」に僕は勝てない。
やがて貯金は底が尽きて、消費者金融に手を出した僕はどうにもならないところまで落ちきっていた。
僕の服がどんどん安物になっても、僕の髪がどんどん伸びても、僕の食がどんどん細くなっても、君の「どうしても」は止まらない。
いいよいいよ。いくらでも。
僕からいくらでも奪っていって。
だって気がつけば僕も、君の「どうしても」を「どうしても」叶えてあげたいという病に侵されてしまったのだから。
涙を浮かべて君が言うから。
「どうしても·····世界で一番綺麗な赤を、見てみたいの」
いいよいいよ。いくらでも。何度でも。
その手を僕に、さぁ、振り下ろして。
どうしても止められなかった僕達の肥大した欲望は、僕達が一番望む形で終わっていった。
END
「どうしても·····」
5/19/2025, 3:56:52 PM