かのこ

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『さよならを言う前に』2023.08.20


 互いに腕を引いて、ガシッと抱き合い、背中をバンッと叩く。そして離れてから、そいじゃねと別れる。
 これが、オレたちのさよならの儀式だ。
 確か彼と親しくなってから始まった儀式のような気がする。
「お別れの挨拶ってこうだっけ」
 彼はおもむろにハグをしてきた。突然のことに面食らっていると彼は不思議そうにする。
「あれ、違う? チークキスのほう?」
 そしてまたハグしてこようとしたので慌てて止めた。
 ハグもチークキスもあまりやらないと言うと、彼はおかしそうに笑った。
「意外」
 たぶんオレの容姿を見てそう言ったのだろう。たしかに両親は外国人で、オレもその血を引いているからそうなのだが。日本びいきの両親は、ハグやチークキスといったことをする人たちではない。なので、自分も馴染みがないのだと言うと、彼はそっかと言ってまた笑った。
「やらない?」
 両手を広げる。この人はどうあってもハグがしたいらしい。オレより背が高くて年上のくせに、こんなところは子どもっぽいのだ。
 素直に従うのもシャクなので彼の腕を引っ張って、ガシッと抱き合い、背中をバンッと叩いてやった。
「情熱的だなぁ」
 彼も同じようにオレの背中を叩く。
 この時から、オレと彼がバイバイをするときはこの儀式をしている。
 

8/20/2023, 11:11:12 AM