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『本気の恋』

 彼女のことを、心から愛していた。勿論、彼女も同様に僕のことを愛してくれていた。この幸せな時間は未来永劫続くものだと思っていた。
 だけど、たった一匹の小さな毒蛇が彼女の、そして僕の未来を奪ってしまった。
 何故、どうして彼女が。僕は嘆き、彼女が噛まれた時に彼女の側にいなかったことを悔いた。もっと処置が早ければ、彼女は死なずに済んだかもしれないのに。彼女は決して手の届かないところに行ってしまった。
 それから暫くの間、僕は何もせず死んだように過ごした。同僚たちも僕に気を遣い何も言わなかった。

 ある日、何日も食事を摂らなかったことで一瞬気を失いかけた。その時に見えた幻視は神の思し召しか、それとも悪魔の誘惑か。僕は一つの手段に思い当たった。
 だが、それは地上を守る聖闘士としてあるまじき行為であり、我らが主を裏切る行為だった。愛する人のためとはいえ、そのようなことをしてもいいのだろうか。
 逡巡は一瞬だった。彼女のいない世界に何の価値があろうか。彼女のいない世界を守ることに何の意味があろうか。僕にとっての女神はアテナではない。ユリティースなのだ。
 ユリティースの魂を救うため、彼女を連れ戻すため、僕は冥界に向かった。死を司るあの神なら、彼女を蘇らせることもできるだろう。どんな手を使っても、世の摂理を曲げてでも、必ず彼女を連れ戻す。
 僕は決意を胸に秘め、竪琴を強く握り締めた。

9/13/2023, 12:02:32 AM