いつまでも捨てられないもの
「姐さん、あたし。温かいスープが飲みたいわ」
「姐さん、あたし。新しいお洋服が欲しいの」
「姐さん、お食事前にはここを綺麗にしておいてね」
この声が耳障りだった。ずっと耳に張り付いて止まない呪いのような言葉がわたしを縛り続けてきた。解放してほしいと願うだけで何も起こらない日々を過ごすのは今日で最後になるの。
首に覆う手に力を入れた。彼女が寝息を立てるたびに、のどの奥が膨らむ音がする。少し力を入れるだけ。これは悪いことなんかじゃない。邪魔だから、要らないでしょ。あなたも。
「違うわ……きっと、こんなの間違ってる」
「起きたの、姐さん。」
「……っええ、すこし心配になっただけよ」
「そう……はやく寝てちょうだい」
そう言い残すと、彼女はふんと背を向けて、大きく肩を下ろした。わたしは扉を開けてすぐに廊下を走り、部屋のドアに強く鍵をかけた。身体中、ひどく汗をかいて、一晩中、布で汚れを落としていた。何度擦っても落ちずに、気づけば窓から溢れる陽射しが三面鏡に反射していた。
「このトマト、赤いわ。運がいいのね」
「赤くないわよ。いつもと対して変わらないでしょ」
「これ、あなたの?」
「汚い……早く拭いてよ」
「どうせなら心中でもしとくんだったわ」
「いいのよ、もう全部終わるんだから」
8/17/2024, 11:11:57 PM