ひと

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カーテン


今日、カーテンを替える。

『晴れた日にカーテンが揺れるのを見るとさ、穏やかな気持ちにならない?』

そう言って微笑む男の姿が脳裏に浮かんだ。
私は込み上げてくる涙を堪えもせず、フックを一つ一つレールから外して行く。
一緒に選んだ家具達は、全て処分した。
あとはこのカーテンだけだ。
白いレースのシンプルなカーテンは、彼が選んだ。
光が適度に入り込むカーテンを、彼はとても気に入っていた。

でも、もう必要ない。

あの日、些細な言い合いから始まったすれ違いは、彼が出て行く事で終わった。同時にお互い共に歩んできた時間も思い出も、全てが終わってしまった。更新される事はない。もう帰ってこない。連絡を取る事もない。

このカーテンを穏やかな顔で見つめる彼を見ることも、もう、ない。

一気に溢れ出した涙は、止まる事を知らず流れ続けた。
散々泣いたのに、まだ彼を思って流れる涙がこんなにあるなんて。

いい加減忘れなきゃ。

もうこのカーテンを捨てたら、彼との思い出は記憶の中だけになる。
それも時間が経てば色褪せてくるだろう。きっと思い出しても、こんなふうに泣く事は無くなるだろう。
あー、そういばそんな事もあったよね。なんて軽く笑いながら友達と語れる日が来るだろう。

だから、この涙で終わりにするんだ。

取り外したカーテンを抱きしめると、全てを出し切るように、私は泣いた。

                     END.

10/11/2024, 11:15:24 PM