秋埜

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 雨はさわさわと、あるかなきかの音を立て、あなたの頬を静かに濡らした。
 綻び始めた桃の蕾、駐車場の車の列、斎場の灰色の建物、そして傘も持たず佇むあなたを、霧に似た雨が包みこむ。
 真っ白な喪服を纏い、あなたはひとり空を見上げている。旧式の煙突は今では使われなくなって、そこから煙が排出されることはない。今頃は白々と焼けた私の骨を、年老いた両親や親戚たちが骨壺に納めていることだろう。ただ血が繋がっているというだけの他人たち。まだ何も分からない幼い姪が、形ばかり私の骨を箸で掴むことを思えば、そればかりがくすぐったい。
 あなたは、長年私と共に暮らし連れ添ってきたあなたは、その場に居合わせることを許されなかった。通夜にも葬式にも出席を許されず、黒い喪服の群れに追い出されたあなたは、ただひとり雨の中に佇んでいる。この国では同性間の結婚が許されず、ささやかに、けれど確かに営んできた私たちの日々に、何の法的な保証もなされない。
 桃の蕾に溜まった雨が雫を結び、あなたの肩に落ちる。雨ばかりがやわらかに、あなたと私の怒りに降り注ぐ。

11/6/2023, 7:10:42 PM