ほたる

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記憶、即ち思い出。
人の脳裏に張り付き、苦しめるものである。

あの頃は良かった、とか、あの人にもう一度会いたい、とか、そんなものは結局全て過去だ。今まで一度も望んだ未来が訪れたことはなかったし、全てが空想であり、そんな重苦しい色をした記憶だけが脳の体積を埋めていく。

幸せを感じた時、私は同時に悲しくなる。
この時間の記憶はやがて私を苦しめる。幸せなんて知らない方が幸せだからだ。だから私に幸せをくれた人たちはもれなく私を不幸にする存在になっているし、そうでなくても私を過去に縛り付ける。

しかし人とは愚かなもので、傷すら癒えていくのだ。レジリエンスという言葉がある。どんなに辛い状況下に置かれても強い憎しみを持っても、いずれは回復する能力のことらしい。それはとても素敵なことのように聞こえるが、逆に言えば忘れてしまうのだ。幸せのあとに待ち受ける苦しみにも適応し、また幸せを求めてそしてそれ故に傷つく。あまりにも滑稽である。

そんなことを思っていると、きみは私に「どうしたの?」と問う。ううん、なんでもないと笑い、次に会えた時には桜が見たいと私は言った。
桜はいずれ散ってしまう。それまでにまたきみと会えるだろうか。

幸せは、悲しみよりも記憶に残る。だからこそ悲しみよりもタチが悪い。この瞬間の記憶が、来年も再来年も桜を見るたびに自分を呪うのだろうと呆れながら、「いいね」と笑うきみを見て、幸せだなと思った。

3/26/2025, 6:03:43 AM