「お前、将来どーすんの?」
高校三年生、周りが模試やら夏期講習やらで自分を追い込み始めた時期。
全く先生の言葉が響かなかった俺は今日も実家就職の幼馴染と海を眺めていた。
「いや…特になんも考えてねぇわ…」
「いやぁ〜ちゃーんと考えろよぉ?」
「お前は行きたい道選べるんだからさ」
その言葉が、怠惰な自分に随分と突き刺さったのだ。
コイツは実家が地元じゃ有名な企業を代々受け継いできた様な家系で、4人中3人が女の中、1人だけ男として生まれた奴。
性別が決まった瞬間から、コイツに権利はなかった。
だからこそ、俺はその言葉を重く受け止めたのだ。
「でも俺、やりてぇ事なんかねぇよ…」
少しの反発も含めて言葉にしてみた。
まるで、子供のように。
「演劇は…?」
「はっ、…お、お前、それ、本気で言ってんのか、?」
「俺はいつだって本気だっつーの!!!」
演劇。
それは俺が習い事で始めたミュージカルで得る事が出来たほんの少しの能力。
選ばれるだけの世界で、俺は選ばれる側の人間になる自信がなかった。
だからずっと、見ないふりをして来たのだ。
「上手くいかなくたっていいよ。歩ける道なら歩こうぜ、」
水面張力のようにずっと誰の言葉も響いてこなかった自分の心に、コイツの言葉だけが入り込んできた。
まるで背中を押してくれているかのように。
「…親に、掛け合ってみる」
「…!おうっ!」
活躍する事が出来たとして、その時はコイツを同じ世界に引き込んでやるのもありなのでは無いか、そんな事を脳裏に浮かべながら俺はヤツに水をかけた。
8/9/2024, 3:01:15 PM