ピロン
大学の夏休みも中盤にさしかかった夜、私はひとり部屋でスマホをいじっていた。私は殆どの時間をこうして過ごしていたため、その音がいつ鳴ろうと瞬時に確認できる状態だった。
もしこの通知音になんの心当たりもなかったら、きっと音が響くと同時に通知の文章に目を通していたことだろう。
けれど今の私には、心当たりしなかった。
というのも、それは引き受けた仕事の納期を守れていなかったことだ。現在進行形で。
この通知は、おそらくこの仕事___サークルでの出し物で使うビジュアルのデザイン___を振ってくれた企画責任者、”Aちゃん”たちからのLINEだろう。
これは先人からの受け売りだが、『期日を守ることは信頼と同値であり、それを破ることは信用を失うことと同意義である。』
なぜ私は今も通知に目を伏せながら、元からありもしない信頼を削り捨てて、部屋の床に這いつくばっているのだろうか。
なんてわざとらしく問いかけるが、おそらく答えはもう自分の中に最初からある。
正直本当は今すぐLINEを返せば事態は前に進むし、今以上に以上悪くはならないだろう。それなのにできないのはなぜか。
一から話せば長くなるが、手短にまとめよう。
要は、先延ばし癖とコミュニケーションへの自信喪失から、本来作る役目だったものを期限内に提出できず、とはいえそれは“Fちゃん”のデザインで統一するという話なので勝手にどこまで手を出していいのか不安になり、どう言えばいいのかわからないまま、連絡もできず面目と自信がなくなった状態で彷徨っているのだ。
商品のデザインや店の看板の話が宙に浮いたまま会話がストップしてしまい、その後なんて返せばいいのかわからなくなってしまった。
とりあえず、まずはLINEを開くところから始めようと思う。不安になりすぎて変な緊張と冷や汗と動悸がすごいが、きっと話せば案外大丈夫ってもんなのだろう。
今日のテーマ「開けないLINE」
9/1/2023, 11:55:33 AM