いろ

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【優越感、劣等感】

 神様は理不尽だ。天は二物を与えずなんて真っ赤な嘘。あらゆる面で優秀なエリートというのは当然この世にいるし、何の才能にも恵まれない平凡なヤツだっている。そうして当然のように、僕は後者に分類される人間だった。
 ドリップしたコーヒーに、温めたミルクを注ぎ込む。苦く芳醇なコーヒーの香りが好きな身としては、せっかくの美味しいコーヒーにミルクを入れるなんて邪道に等しいと思うけれど。ミルクと砂糖をたっぷり入れないとコーヒーを飲めない子供舌な君のためには致し方ない。自分のぶんのブラックコーヒーと、君のためのミルクコーヒーをトレイに載せて、僕はリビングでパソコンと睨めっこをしている君の元へと歩み寄った。
 紅茶でもジュースでも好きなものを用意するよと何度言っても、君は飲めやしないコーヒーを飲みたがる。不思議だよなぁと思うけれど、君のような天才の思考回路が僕にわかるはずもないから、理由を考えることそのものをとうに放棄していた。
「ありがとう」
 パソコンのモニターから視線を外さないまま、君は声だけを僕へと向けた。マグカップを雑に掴み、見もしないで一口。その瞬間、げほりと激しく君はむせ返った。
「ちょっと、これ砂糖入ってなくない?!」
「あはは、ごめんごめん。うっかり忘れてたよ」
「絶対わざとじゃん!」
 むくれた君の白い頬をツンと指先でつついた。容姿端麗、頭も良ければ人脈もあり、行動力にも溢れた、非の打ちどころのない完全無欠のエリート様。君の隣にいるといつも、自分自身の凡庸さを痛感させられて、果てのない劣等感がちくちくと刺激される。
 だけどそんな完璧な君が、僕なんかに構い、僕なんかの一挙手一投足で顔色をころころと変え、無邪気に笑い、子供のようにむくれてくれる。それがどうしようもなく幸せで、だから僕はこうして肥大した劣等感を持て余しながら、君の隣に立ち続けている。
 神様は理不尽だ。だけど非凡な君が凡人の僕を選んでくれたというその事実だけで、僕は世界の全てに対して仄暗い優越感をひけらかして、君の隣で笑って生きていけるんだ。

7/14/2023, 3:24:41 AM