「もう一本次の電車で」
退勤後、駅前のベンチで話をするのがいつの間にか習慣になっていた。
仕事の愚痴や互いのパートナーのこと、趣味の話、若い時の恋愛のこと。
話題はなんでもよかった。お互い心地良い時間を過ごせるから。
最初は、電車を待つ数分の間だけだったが、次第に一本、二本と遅らせるようになった。
「そろそろ帰ろうか。」
職場を出た時と比べると辺りはすっかり暗くなっている。
反対方向の電車に乗る僕たちは、ホームでお別れだ。
金曜日。いつもの「また明日」は、今日は無い。
30分ほど電車に揺られて家に着き、さっさとシャワーを浴びて食事も程々にベッドに入る。
パートナーは先に寝ているようだ。
お互いに帰る場所がある。これが現実なのだ、とパートナーの寝顔を眺めて思う。
目が覚めるまでに、この気持ちが消えてしまえばいいのに。
言葉にしてはいけない感情を抱えたまま、眠りについた。
8/4/2024, 1:32:30 AM