針間碧

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『過ぎ去った日々』

 友が死んだ。十年来の友人であった。まだ、二十五歳という若さであった。あれだけ元気で、何なら私よりも健康であった友人が、だ。交通事故であっけなく死んでしまったのだ。友人と飲み屋で語り合って、次の約束をして別れた後の事だったらしい。一週間一切音沙汰なかったので、心配して連絡したら、親族が出てきて教えてくれた。
 葬儀はとっくに終わっていた。それもそうだ。私は彼女と友人でこそあったが、彼女の親族とは話したことも、関わったこともなかったから。親族は彼女のスマホを開くことができず、連絡もできなかった。結果的に、親族のみで葬儀は済ませたとのことだった。
 私は、線香だけでもあげさせてもらった。仏壇に置いてある友人の写真は、私の見たことのない写真であった。彼女の母から話を聞いたが、どうやら遺影は二十代のものを使いたかったそうで、既に準備を済ませていたそうだ。そんなこと、私は知らなかった。少なくとも私の知る彼女は、一切死をにおわせるようなことは言ってこなかった。しんどいことがあっても、いつでも明るい未来を信じて進んでいたから。
……私は、彼女のことを、何も知らなかったのか。確かに私だって彼女に言っていなかったこともあったろうし、彼女もそうだったろう。それでも、彼女のことは最低限は知っているものと思っていた。
 できる限り平常心を保つように心がけながら友人の母親にお礼を告げ帰ろうとすると、友人の母親は涙を浮かべながら一礼を返してくれた。
 帰り道、スマホが鳴ったので開いてみると、何故か亡くなった友人からメールがきていた。普段SNSを使ってやり取りをしていた友人が、だ。おかしいと思ってすぐに開くと、どうやら予約メールをしていたようだった。私は近くの公園のベンチに座り、メールを読み始めた。

多分私はそろそろ死ぬので、早めに手紙を送っておくね!もしこのメールが届いた時点で私がまだ生きてたら、その時は笑いとばしてやってよ。
 私は、そろそろ死ぬって知ってた。そんなわけないって思ってる?それが、本当に知っていたの。今まで、私はちょっと先の未来が予測できた。本当にちょっと先だけどね。どこかとある重要地点が訪れそうになると発生してた。だから、私はいつも大事なところでは失敗したことないでしょ?きっとあなたなら理解してくれるはず。
 さて、もし本当に未来が見えていたとして、何故死を回避しないのかって疑問に思うよね。もしあなたからこんなメールが届いたら、私だって気になるもの。…確かに、私が事故にあわない未来を選択することもできた。でも、その未来を選択すると、別の人が死んでしまう。どちらかしか選択できないみたい。悩んだ。悩んで悩んで……私が死ぬことにした。実は、このメールを打っているのもその決意をしてすぐに書いてる。これを書かないと、勇気が出せないから。
 ごめんね。あなたを私の決意のためのだしにして。怒ってくれて構わないよ。一方的に絶交してくれても構わない。それでも、そうしたくなるくらいあなたは私にとって大事な存在だった。
 今までありがとう。これからはどうか、私のことは忘れて生きて。あなたはあなたが私に語ってくれた未来を信じて生きて。

 メールはここで終わっていた。彼女らしい内容であった。彼女らしすぎて一周回って笑ってしまった。公園で遊んでいた子供たちがこちらを不思議そうに見ているが、知ったことではない。
 彼女は、彼女らしく生きた。それが知ることができただけでも、私は満足であった。彼女は、自分のことは忘れてくれと言ってきたが、そんなことできるわけがない。私は、私だけは彼女の生き様を覚え続けていく必要があるのだ。
 これからは彼女のいない未来を進んでいかなくてはならないが、彼女との日々は決して色あせない、変わらないものとなるだろう。

3/10/2024, 9:56:46 AM