空を見上げると、うっすらと月が見えた。
童話に出てくる猫が笑っているような、細く弧を描いた月。
(お星さまに願い事をすると叶うとよく聞くけれど、月に願い事をするとどうなるのかしら?)
数時間後に夜を連れてくるための標のように空に笑う月は、ともすれば嘲笑しているようにも見えた。
(今日の月は本当にあの猫みたい。あれで本当に願いを叶えてくれるのかしら?)
心持ちの問題だとは思うが、一度そうだと思ってしまうと本当にそう見えてしまう。
(――けど)
ニヤニヤとこちらを見下してくる笑みに一瞬心を逆撫でされた気がしたが、
(けど、それくらいのいい加減さがちょうどいいのかもしれない。“彼”は気まぐれだもの)
ふと思い直し、肩の力が抜けた。
「お月さま、どうか私の願いを叶えて」
人知れず呟いて、少し白が濃くなった月に祈った。
(些細なことに捕われない、強い心を持てますように)
/『月に願いを』
5/27/2023, 10:14:15 AM