(お題:だから、一人でいたい。)
⚠このお話には女性同士の恋愛描写があります⚠
温い風に、穏やかな波の音。
サラサラとした砂の感覚が足裏から伝わってくる。
この辺りは人工的な光が全くないからか、真っ暗な夜空にはちらちらと星が散っている。月は満月というにはまだ少し欠けていて、なるほど、今夜は十三夜らしい。
そうしてひとり、夜の海を楽しんでいれば、遠くからゆったりとした足音が聞こえてきた。
口角が上がるのを堪えながら段々と近づいてくる足音を聞いていれば、私のすぐ隣で音が止む。
「やっと見つけた。」
見上げれば、少し呆れたような顔でこちらを見る彼女。私はそんな彼女にひとつ笑みを零して、お決まりのセリフを言う。
「あら、見つかっちゃった。」
「今回は随分と遠くまで行ったね?女の子が一人でこんな夜遅くに出歩いてるなんて、危ないだろう?次からはやめたほうがいい。」
「はぁい」
どうして毎回こんなことをしているんだい?昔、彼女にそう聞かれたことがある。
こんなこと、というのは、ひとりっきりで人気のない所へ行き、彼女に私を探させること。
週に数回、「私を探してみて♡」のメールを合図にこのお遊びは行われていた。
長々と昔の話をする趣味はないから端的に話すけれど、私は昔から人とのコミュニケーションが壊滅的に下手くそな人間だった。周りと馴染めず、いつもひとりきりで過ごしていたところに、彼女が現れたのだ。
彼女は女の子にしては背が高くて、キリッとしたかっこいい顔と立ち振る舞いをしていた。
そんな彼女に、幼い頃見た童話の王子様を重ねた。
この生産性のないおあそびだって、なんとなく、私を探しにくる彼女が、シンデレラを追う王子様みたいで、素敵だなって思ったから。ただそれだけ。
そんなことを話せば、彼女はならもっと気合を入れて探さなきゃね、なんて、とってもかっこいい笑みを浮かべて言ってくれたのだ。
そのため、現在進行形でこのお遊びが続いているわけだ。
ぼうっとしている私を見かねたのか、どうしたんだ?と彼女は私の顔を覗き込んでくる。
「昔のあなたのことを思いだしていたの」
「それは嬉しいな。でも今の私のことも見てくれ。今みたいに放置されると寂しくなってしまうからね」
「ふふ、気をつけます」
ひとりが好きなわけじゃないけれど、彼女が私を見つけるその瞬間が、たまらなく愛おしい。だから、ひとりでいたいと思うのだ。
今日の夕飯は何にしようか、なんて話しながら、私たちの、私達だけのお城に足を進めた。
8/1/2024, 8:53:50 AM