黒山 治郎

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自分にとって、正しさを選べる歳になったんだ
そう自覚してからの私の行動は早かった。

頗る聡い訳では無いが、少なくとも愚かでは無いと
そう信じて己を奮い立たせ
勇敢さを示す為に最前線へ身を投じ
敵国兵も国賊達も全て
立ちはだかる者は打ち倒してきた。

曲がらない様にと、道を外さぬ様にと
手を広げ凱旋を果たす度に誉れを胸に抱いた。

だが、どうした事か
愛する国王は変わってしまった。

力を持ちすぎた故に“一等国”へ妄執し始め
戦友でさえ発言や選択を間違えると
正される間も無く叛逆者として
その首を落とされ、晒し者にされ
戦果を知る者にも涙ながらの石を投げられた。

“誉れある国民の品格を生涯を賭して保ち
各々の力を奮い国家の護持を優先せよ”

こんな筈では無かった…
いつの間に私の世界は、私の誇るべき主君は
悪漢小説を誇示するものへと
すげ替わってしまっていたのか?

あの頃へ、正しさを選び直せるのならば
この腐敗臭を憶えたまま、戻りたい。

…否
否、違うだろう。

私の選択肢は今ここにある
私は今、この時代を確かに生きている
過ちは正されなければならぬ
侵された者達を、怯えた者達を
声と共に顔を上げさせられるのは
今を生きる我々に道をくれるのは
他ならぬ我々の理想と行動なのだ。

愛した王よ、愛する国よ
今、私は岐路へと至った。

あの頃を違える、この選択は
きっと貴方の息を止めるだろう
国を変えてしまうやもしれない
それでも、これ以上に国民と戦友を
私は失いたくは無いのだ。

待っていてください
誉れを君主である貴方へ全てお返しする為に
私は今一度、そこまで歩んでみせましょう。

                    ー 岐路 ー

6/8/2024, 4:32:24 PM