まだ冬もはじめのほうだというのに毎日だんだんと冷え込みが酷くなっている気がする。
最近はベットから抜け出すのも一苦労だ。
朝玄関をあけてはっと息をつくとふわりと広がる白い息。
冬の始まりのこの時期も私は嫌いでは無い。
この時間、この場所。朝から先生に会える冬は好きだ。
いつもは車なのに運転が怖いという理由で徒歩通勤の先生に偶然を装って挨拶するまでが一連の流れ。
ストーカーなどでは無い…たぶん、…断じて。違うよね?
ずっと前を歩く先生の姿を見つける。見間違うはずがない
軽くセットされたふわふわの黒髪と暗い色のコートは先生の可愛さとかっこよさを存分に引きたてている。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、と誰かが言ったがその言葉は先生のためにあるのでは?
「せんせぇ~!!!」
めいっぱいの大声をだして呼び止める。
脚をとめてふわりと振り返る動作をした先生は私を見つけるとにこりとわらって手を振ってくれる。
まるでカップルみたいだ。完全に私の片思いだが。
「おはよう、貴方は朝から元気だね」
「おはようございますっ、先生に会えたからですよ」
「はいはい、まぁたそんなこといって」
呆れたような表情を浮かべているが口元だけは緩んでいるのがわかる。
口角があがっている先生はさながらわんこで愛くるしい。
「ねぇ、貴方は車って怖いと思わない?」
突然な話の振り幅に驚くがこれが先生の平常運転だ。
運転したことは無いから先生の感覚は分からないが、色々操作をしたり難しいんだろうなぁと予想ぐらいはつく。
「免許が無いので分かりませんけど、難しいそうだな~ってイメージぐらいは、そんなに怖いんですか?運転、」
「だって、車が逆さまになっちゃったら怖いじゃない」
「さ、逆さま…?車が?」
「うん、逆さま。こうさ、くる~っと一回転?」
先生、一回転しちゃったら逆さまじゃないですよ。
そんな野暮なことは言わない。
身振り手振りを付けながら私に何とか逆さまを説明しようとする先生は飛び切りに可愛いから。
「そうですね、逆さまになったら怖いですし、この調子でずっと徒歩通勤お願いします」
「なんか貴方俺の事馬鹿にしてない!?」
2023.12.6『逆さま』
12/6/2023, 2:05:29 PM