お題/君の目を見つめると
すべてが、見透かされている気分になった。吸い込まれそうな深海を湛えた色だ。その瞳を向けられると、時間が止まった。
すべてが見透かされて、何もかもを晒される恐ろしさに震えながらも、その美しさからは、逸らせなかった。息を小さく呑む音と、君と私の呼吸音だけが響く。
ひとつだけ、君に話せなかったことがあった。
たった二文字の、それでも大切なことば。君と目が合って、見つめた瞬間から、私の中に育てられていたことば。
君はどう思うだろうか。気持ち悪いと思うだろうか。嬉しいと思ってくれるだろうか。
私は臆病だから、傷付くことが怖いから。君との関係を壊したくなかったから。だから、だから、それを呑み込んでしまった。溢れる言葉の濁流の中の、途中で引っかかった石。君に話した幾千の言葉の中に、ひとつだけ君に言えなかった本音。
あのとき、君に想いを伝えることができなかった私の臆病さと、幼さと、後悔を、まだほんの残る不安と恐怖を。すべて、すべて、それでも伝えたくて、再会した君に言葉にした。
「……好き」
4/6/2023, 4:11:27 PM