あっちぃー!と、俺の三歩前を歩くお前が叫ぶ。夏の昼下がり、河川敷には人もまばらだ。ふたりの影は乾いた土に短く落ち、川の水が気怠げに太陽を反射している。
「家帰ってよぉ、アイス食べよーぜアイス!」
「ばーかっ、なんのための午後休みだっ!明日はテスト2日目だろうがっ!」
軽口を叩きながらふたりで図書館に向かう。寂れた自習室の、塗装がところどころ剥がれた机に並んで座る。年代物の空調から埃っぽい、ぬるい空気が出てくるだけで、時折ぶつかる腕は汗ばんでいる。
眉間に皺を寄せて、問題集と睨み合うお前。小さい声で昨日教えた公式あったろ、と囁くために顔を寄せると、柔軟剤と汗の混じった香りがした。
「なんだよ。嗅ぐなよ」
汗ばんでいた顔がより赤くなっている。
「あのさ、ここのエアコン弱くね?」
そう言うと無言で頷くお前。ひそひそ声に飽きたのか、ノートの隅っこに文字を書き始めた。
「でもお前と勉強できるとこ、ここしかない」
そーだよな。俺の家貧乏でエアコンなんてないし。ここより暑いし。お前の家、家っていうか住んでるとこ、他にも子供とか先生とかいっぱいいるもんな。
「こたつ買うかも」
カリカリと自分のノートの隅っこに、今日1番のサプライズを発表する。
「マジ!?」
お前が大きい声出すから、部屋中の肩が跳ねた。神経質そうなメガネの男がこっちを睨んでる。
手をメガホンの形にして、俺の耳元でお前が囁く。
「ふゆになったら、おまえんち行かせて!」
あぁ、この言葉聞きたくて、おれバイト頑張ったんだぜ。真夏のガソスタ、やべぇんだぞ。
「ま、呼んでやらんこともない」
馬鹿。おれの馬鹿。なんでこんな言い方しかできないんだ。言えよ!お前と俺ん家で、こたつでくっつきたいからバイト頑張ったんだぜって言え!
ニコニコ顔で俺のノートの隅に「ありがと」の4文字が書かれる。バレてんのかな。どこまで、バレてんのかな。
「おれ、ふゆ楽しみだ」
ボソッと横でお前が呟いた言葉で、部屋がまた暑くなった気がした。
11/17/2023, 2:18:26 PM