誰かに『こんな夢を見た』のだと始められると、つい身構えてしまう。私は人の夢になど、まったくもって興味が湧かないタチで、興味があるフリすら出来ない可愛げのないオンナだから──と、そう思っていたのだけれど。
「もう先週になるんだけど、おまえが俺の夢に出て来てくれたのさぁ、マジで助かったんだわ〜。今日はおごる、なんでも頼めよ」
呼び出され、なにも考えずにそれに応じた私に、奴は開口一番にそう言った。
それでポン、とメニューを手渡されても……いや、どうしろっていうの?
「なにを言ってるのか、よくわかんないんだけど」
「だよな! まぁいいじゃん、飲もうよ」
大学生の頃にサークル仲間として知り合った奴とは、卒業して社会人になってからも、何度も会っている。が、こんなふうに二人きり、というのは、そういえば初めてだった。
共通の友人たちの、それぞれに知っている現況を教え合い、大学時代の他愛のない思い出を話したり──それはそれで楽しいし、いいんだけど。
でも、一向に私が登場したという夢の話にならないのは、どういうことなんだろう。さすがに気になるじゃないか。
「で。そちら様の夢にお邪魔したとかいう私は、いったいなにをしたの?」
「いやでも、おまえ。人の夢のハナシに興味ねぇだろ?」
……はぁ?
自分でもわかるくらいに眉根を寄せ、奴をにらんでいると、奴が言った。
「いつだかの合宿で、そんな話題になったとき。おまえ、適当なこと言ってその場から抜けてさ、俺はそれになんとなくついていって、もしかして逃げた? って訊いたら、そう言ってたじゃねーか」
へぇ。
すっかり、覚えてない。
「まぁ、確かに興味ないんだけど、でも今回のはさすがに」
「フッ、興味湧いた? つっても、たいしたことないよ? ただそっくりそのまま、『アンタの夢になんか興味ない』って言い放って、去っていっただけたから」
なにそれ? まるで意味わからん。
私は掴んでいたジョッキに視線を落とし、すると、奴が──伸ばしてきた手で、私の眉間のシワをぐいーっと押し広げながら、「フッ」とこぼすように笑った。
……あれ?
いつの間に距離が、こんなに近かったんだ?
「でもそのおかげで、最近定番になってた悪夢を見なくなった、と、そういうわけ。……納得した? 次、なに飲む?」
私の眉間から、何事もなかったように手を離した奴は、ドリンクメニューをこちらへ広げてみせる。
ったく、納得したかどうかの返事も聞かずに、なんなのよ。悪夢の内容を訊いていいのか、わかんないじゃないか……って、いや、そうか。
奴は、つまり──人の夢に興味がない私を、ご所望なんでした。
「……生で」
「ああ、そういやおまえって、最後まで生しか飲まないヤツだったっけ」
そこからの私は、奴の夢のことに興味を失ったフリを続け──ああもう。
「なぁ。来週末、また誘ってもいいよな?」
別れ際。奴のそんな問いにまんまと、フツーに頷いてしまっていて。
この私が誰かの夢、しかも悪夢に興味を持つなんて──こんなのって、ちょっとおかしいよね?
1/24/2026, 9:49:13 AM