老夫婦、思うところがあって北国に移住しました2
「何を見てるんだい?」
こたつに入ったばーさんが、にこにこして手にしているものを見ていた。
「ああ、これ? お隣さんからいただいたんだよねえ。孫が、二人学校でもらってきたから、一つどうですかって」
下敷きのようなものをぺらりと見せる。
「学校で?」
「りんご下敷きだって」
見ると、黄色、赤、赤黄混じったやつ、3×5=15個のリンゴの写真と品種名が載ったカラー下敷きだった。
「へええ」
こんなに種類があるのかということに驚く。ばーさんは老眼鏡の奥の目を細めて、
「ふじ、つがるは有名だよねえ。最近、若い女の子のタレントさんの、なんだっけ」
「王林?かい」
「そうそう、これも聞いたことあるわ。黄色い品種なんだねえ」
ほかにも、世界一とか金星とか、聞き慣れないものもある。あ、これは知っとるぞ……紅玉。アップルパイとかで使われるやつじゃな。
「ぐんま名月なんてのもあるな。群馬産かな?」
「たくさんあるんですねえ、りんごって」
見ているだけで、楽しい。そうか、こっちの小学校の子どもたちは年に一回りんご下敷きをもらうのか。
これをノートに敷いて勉強するところを思い浮かべると、なんだかほのぼのした。
勉強に飽きたころ、ぺらんとノートをめくってこの色とりどりのりんごたちを見たら……。ちょっとほっとするんじゃろうな。
「明日、スーパーでりんご買って来ようか。びっくりするぐらい安いからな、東京に比べると」
「いいですね。私、この【トキ】って食べてみたい。由来は国鳥のあの鳥かしら?」
「さあて」
どんな味がするんじゃろうな。日にいっこずつ、ばーさんと食べ比べするのも楽しそうだ。
太陽の下、光を集めてすくすくと育った赤黄の果実がにっこりと微笑んだ気がした。
#太陽の下で
実話のみを更新していきます。
11/25/2024, 3:02:55 PM