NoName

Open App

もしも未来を見れるなら(オリジナル)

子供は元気が一番。
失敗から学ぶ事も多い。
なので、あえて失敗させる事もある。
そういう教育方針だった。
おかげで、すごく元気に、わんぱくに育っている。

今日も今日とて、人の多い駅構内を走り回っていた。
小学校低学年の兄弟で追いかけっこをしている。
やがて、長い階段を駆け上がり始めた。
周囲の人が眉をひそめているのでさすがに限界だろう。
私は注意するべく、階段の中程で声をかけた。
「翔、大地、走るのは」
私の目に、翔が振り返って足を踏み外す姿がスローモーションのように見えた。
「危ない!!!」
悲鳴のような声が出て、とっさに手が出るが、子供達は手すりの反対側、かつ、10段以上の差があった。
息子の真下には、杖の老人。
勢いよく、ドンとぶつかり。
老人の後ろには、スマホを見て階段を上っている若い女性。
老人が短い悲鳴をあげて彼女にぶつかり、彼女もまたとっさの事に手も足も出ず。
3人は勢いをつけたまま、団子になって一番下まで転げ落ちていった。
私は蒼白になって、ガクガクする足を何とか動かして、手すりを頼りに下まで降りた。
「痛ててて」
一番上になって落ちた息子は大きな怪我もなく、無事のようであった。
やっちまったという顔をして、こちらを見ている。
「お母さん。ごめんなさい」
彼の下には、頭から血を流した老人が。
その下にも、手足が変な方向に曲がった女の人が。
「き、救急車!!」
誰かが、大きな声をあげた。
周囲が騒然となる。
息子の腕を、見知らぬ人が乱暴に引っ張って、下敷きになっている二人から退けさせた。
私は彼を捕まえて、ぎゅっと抱きしめた。
「お母さん?」
大変な事態をまだ理解していない息子に、腹が立った。
否。
なぜ私は息子たちを注意しなかったのか。
人にぶつかったら危ないと教えなかったのか。
人が多いところでおとなしくするよう躾けて来なかったのか。
後悔が、ぐるぐると頭を回る。
もし、こうなる未来が見えていたら。
決して息子たちを自由にさせはしなかったのに。

全ては後の祭り。
私はただ呆然とその場に立ち尽くした。

4/19/2026, 11:58:49 AM