かたいなか

Open App

牛肉の希少部位に、三日月の別名を持つ「マキ」なるお肉があるそうです。
リブロースを巻くように存在し、それはそれはジューシーで、サシが豊富。
旨味濃厚にして、肉汁も多く、
特上ロースとして提供されることもあるそうです。

今日はそんな、ビーフに内包された三日月と、
その三日月を奉納されて、尻尾ぶんぶんお耳ピタンな子狐のおはなしです。

最近最近の都内某所、某深めの森の中に、
本物の稲荷狐の家族が住まう、不思議な不思議な稲荷神社がありまして、
あんまり人気はありませんが、それでも、「その神社に」足しげく参拝する客は、複数ありました。
というのもやはり本物の稲荷狐がおりますので、
ご利益はちょっと多めなのです。

そんな稲荷神社ですので、
信心深い参拝客は何人かおりまして、
正月ともなれば、あのお店から良い魚、そっちのお店から良い野菜、こっちの店から良い果物と、
「あのとき助けてもらった恩」として、
ちらほら、お供え物が上がるのでした。

ところで稲荷狐の家族の末っ子が
去年の夏に諸事情で、
雪国和牛の味と匂いと肉汁と噛み心地を
ガッツリ、ばっちり、学習しておりまして。

…——「わぎゅ!わぎゅ!わぎゅー!」
さて。
その日の子狐はせわしなく、今朝に奉納されたお肉の塊を、くんくん、くんくん!
鼻をくっつけて匂いをかいで、尻尾も高速回転させて、お目々などキラキラさせておりました。
「わぎゅ!和牛!おいしい和牛だ!」

淡い赤色に、ぽってりクリーム色の差したそれは、奥多摩地域で育った、なかなか上等な和牛の肉。
「三日月」の別名を持つ希少部位。
東京和牛のマキのブロックでした。
「わぎゅ!わぎゅ!和牛!」

かじかじかじ、ちゃむちゃむちゃむ!
去年の夏に和牛の味を覚えてしまった子狐です。
神社の神様に捧げられて、そこから下げられた三日月お肉に、我慢ならず牙をムチュッ!
小さなおくちを大きくあけて、つまみ食いです。
「おいしい。おいしい」

コンコン子狐は狐なので、ぶっちゃけお肉は焼かなくても、食えるのです。
「おいしい。おいしい」
だけどちゃむちゃむ、2くち3くち飲み込んで、
子狐は夏の縁日に食べた、雪国の和牛串を思い出しまして、ピタッとつまみ食いをやめました。
「わぎゅうくし ジャーキー」
やっぱり焼いたのを食いたいのです。
メイラード反応の十分為された、あのジューシーを、食いたくなったのです。

三日月の部位で作った牛串は、間違いなく、美味しいに違いありません!
三日月の部位で作ったジャーキーも、間違いなく、美味しいに違いありません!
少なくとも子狐はそう確信しておりました
(ジャーキーは脂身の少ないモモ肉、特に外側のモモ肉が多く使われるそうです)
「和牛串!!ジャーキー!!」

そんな子狐の首根っこを、キュッ、
捕まえてしまったのが、子狐のお母さんでした。
「そのくらいになさい。
あとは、晩ごはんまで残しておきましょう」
お母さん狐は人間のカタチで子狐を抱えると、
子狐が牙を立てたあたりの三日月お肉を少し切って、残りをお台所に持ってってしまいました。

「わぎゅう わぎゅう」
「じっくり炭火に通して、皆で食べましょうね」
「すみび! すみび!」

東京和牛の三日月は、その後炭火で焼かれる前に、
トン、とん、と5等分。
ひとつ目は子狐のリクエストで牛串に、
ふたつ目はコトコトあったかビーフシチュー、
みっつ目を明日のハンバーグ用に準備して、
コンコン、残りはひとまず、冷凍されたとさ。

和牛の部位、三日月のおはなしでした。
おしまい、おしまい。

1/10/2026, 4:06:08 AM