失恋のテーマで最初に思い浮かんだのは、高校生の時に同じクラスだった平山さんという女子の事。
自分はいわゆる陰キャグループの男子で、平山さんは陽キャグループの女子だったけど、そういうスクールカースト制度に縛られる事なく平山さんは気さくに話しかけてきてくれた。
なぜかというと俺と平山さんは勤務しているバイト先が一緒だったからだ。
なので俺とは友達ではないけど、教室で顔を合わせた時に知らんぷりするのもなんか不自然だから挨拶くらいしとくかみたいな感覚が平山さんの中にあったんだと思う。
というのは俺の勝手な想像だから真実は分からないが、とにかく可愛くて人気者の平山さんに学校で話しかけて貰える事に俺は浮かれていた。
けど学校じゃ周りの目もあるし、今となってはあの頃の独特な感情は思い出せないけど、俺自身は平山さんに挨拶や話をふられても片手あげて「ははは」なんて愛想笑いで返してた。
たまに上手く話せても、陽キャの男子が横からからかってきたり、陰キャのくせに生意気だと思われてるのか知らないが、肩や背中を小突いてくるのが嫌だった。
学校が終わってバイト先に自転車で向かう途中、たまたま平山さんと合って一緒にバイト先へ向かう時間が好きだった。
話した内容で記憶に残ってるのは、クラスの誰と誰が付き合ってるらしいとか…退学した子のその後の話とか…あと、クセの強い先生やバイト先の社員のモノマネを持ちネタみたいに毎回やって笑わせてくる平山さんが好きだった。
考えてみれば話していたのは本当にどうでもいい事ばかりで、趣味や好きな物の話をした記憶がほとんどない。
楽しいとおもっていたのは俺だけで、今になって思うと平山さんはかなり俺に気を使っていてくれたのかもしれない。
高校二年の夏休み、お盆で親戚の家に行っているタイミングで、平山さんが「皆で遊びにいこうよ」みたいな連絡をくれた。
俺はお盆で親戚の家に行ってるって返すのが子供ぽくてなんか恥ずかしいのと、平山さんの友達関係と付き合うのが怖くて、「ごめん忙しい」と格好つけて断った。
あの時、帰省してなくて家にいて、勇気を出して誘いを受けてれば何か変わったのかなぁと、酒を飲んで酔っ払った時にふと思い出しては後悔する。
冬。
俺の通っていた高校は田舎で、生徒の大半が自転車か徒歩で通学していた。
雪が降る中、高校まで自転車で行くのはかなり寒くてしんどい。
校則で禁止されていないので、陽キャグループはマフラーと手袋とコートの防寒をしっかり準備して通学する。
しかし俺のような陰キャグループは、なぜか手袋しかつけない。
なぜかと言われると表現が難しいのだけど、陰キャがマフラーとコートをつけると、一部の陽キャ連中にいじられるような独特な空気感があったからだ。
そんなわけで寒そうな俺に放課後、半分いじるような感じだったけど平山さんが自分のマフラーを冗談ぽく俺の首に巻いて「あげる、寒いから明日からつけてきな〜」みたいに言ってくれた。
正直かなり嬉しかったけど、やはり恥ずかしくて次の日からも俺は手袋のみで通学した。
思い返せば思い返すほど、相手の気持ちよりもいつも自分の事しか考えてなかったあの頃の自分の愚かさが嫌になる。
高校三年になってバイトを辞める時、仲の良かった社員の人が寿司をとってくれて、社員食堂で円満退社?のお祝いのような催しをしてくれた。
社員の人が二人とヤンキーだけど感じ良いフリーターの人と平山さんともう一人バイトのお姉さんもいた。
夜の9時から11時くらいまで薄暗い社員食堂で騒いで、終わった後は平山さんと一緒に帰った。
途中、コンビニに寄って飲み物を買って、二人でだらだら話した。
そこは鮮明に覚えているのに、どんな話をしたのかほぼ覚えていない。たぶん宴会の余韻を語っていたような気がする。
ともかく高校三年間で唯一、俺の青春と言える日だったと思う。
で、本題の失恋の話に戻る…
結論からいうと、俺は失恋していない。
なぜなら俺は平山さんに告白していないからだ。
もしタイムマシンがあるのなら、あの頃に戻って、素直に「好きです」と言えると思う。
でも、あの頃の俺にはどうしてもできなかった。理由は大人になった今でも不明なままだ。
平山さんから届いた最後のメッセージは、だらけるコーギーの写真と「実家の犬」という短文。
俺は、それに対して何とも言えない顔をした犬のスタンプで答え、それから何年もお互いに連絡をとっていない。
おそらくこれから先も、この会話の先が続く事は永遠にないだろう。
ここまで書いて、ようやく気付いた。
自分の気持ちを思うままに書き連ねた乱雑な文を読み返してみると分かる。俺はとっくの昔に失恋していたのだと
6/3/2024, 11:58:37 PM