**「強さの形」**
夜の静寂が辺りを包み込む中、星空の下で二人の影が揺れていた。広い草原の中に立ち尽くす青年、カイはじっと地平線を見つめている。風が優しく彼の髪を揺らし、冷たい空気が肌に染み込むように感じた。
隣に立つ少女、リアは黙って彼を見つめていた。しばらくの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「カイ、どうしてそんなに悩むの?」
カイはゆっくりと息を吐き、少し間を置いて答えた。
「自分らしさを貫くこと、それが俺にとっての強さだ。」彼は遠くを見据えたまま続ける。「けど、その強さが、今は誰かを傷つけるかもしれない。俺は間違っているのか、よくわからないんだ。」
リアは彼の言葉に少し驚きながらも、彼の苦悩を理解しようと耳を傾けた。カイは普段から慎重に物事を考えるタイプだったが、時には考えすぎて動けなくなることがあった。それが、彼の悩みの根源だった。
「慎重に考えるのは悪くない。ただ、考えすぎて動けなくなるのは違うよな。」カイは自分の言葉に苦笑し、リアの方を見た。「…そうだろ?」
リアは優しく微笑み、カイの肩に手を置いた。「確かに、悩むことは大事だよ。でも、カイはいつも誰かのために考えてる。その気持ちを信じて動けばいいんじゃないかな。」
カイは少し黙り込んだ後、静かに頷いた。彼の中で何かが少しだけ動いたように感じた。しかし、まだ完全には答えが見つからない。
「優しさってのは、ただ甘いだけじゃなくて、時には厳しさを伴うものだと思うんだ。」カイは、自分に言い聞かせるように言った。「俺は、もっと強くなりたい。優しさも強さも、両方を持てるように。」
リアはその言葉に安心したかのようにうなずき、「カイならきっとできるよ」と答えた。
その時、遠くの空に流れ星が光った。カイはその光を見つめながら、過去の自分と今の自分を思い返す。失敗や後悔、そして迷い。だが、それでも前を向く決意が、彼の中に芽生えていた。
「過去に囚われすぎても、今は見えなくなる。前を向いて進むのが一番だ。」カイは、静かに呟いた。
リアは優しく微笑んで、「その通りだね」と応じた。二人はしばらくの間、何も言わずに夜空を見上げていた。未来への不安と期待が、静かに心に浮かんでは消えていく。
「無理に合わせるつもりはない。だけど、理解し合えるなら、その方がいいだろう。」カイは最後にそう言って、リアを見つめた。彼の瞳には決意と優しさが宿っていた。
リアは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。「それなら、私も一緒に歩いていくよ。カイが選んだ道を。」
カイは彼女の言葉に少し照れくさそうに笑い返し、再び夜空を見上げた。未来はまだ見えない。だが、彼は少しだけ自分の進むべき道を見つけた気がした。
10/2/2024, 7:20:15 PM