「綺麗だね~」
窓越しに、長い髪を掻き上げる背中
「さっき見たぁ?めっちゃ綺麗だったでしょ?」
振り返る満面の笑顔
3月の終わり
今年は暖冬だった影響で、桜の開花が早まっていた
時々吹き込む春一番の嵐に、桜の花弁が耳を掠める
「まさか、見れるなんてな」
制服姿に身を包んだ胸元
校章がキラッと光を放つ
今日は離任式
今年卒業を迎えた俺達も、母校を訪れるため、通い慣れた通学路を通っていた
「今日でこの通学路も最後か…… 先生は、誰が移動しちゃうんだろうね?」
悲しげな顔をし、遥か遠くを見つめる君
「そだな、最後だな 誰だろね?」
答えに迷う俺なんかを横目に、君は桜散る景色を眺めている
「この景色も、これで最後か……」"ビュールルルル"
突然、強烈な風が窓から吹き込んだ
「え~っ?何か言ったぁ~?聞こえな~い!」
君は、乱れた髪を押さえることで、必死みたい
「なんでもない!ただの独り言!」"ビュールルルル"
尚も強く吹く風
今日の日が終われば、君と過ごしてきた日々ともお別れか
別々の学校 別々の通学路
住む県だって変わるというのに
「うわぁ~、凄い! 見て、桜吹雪だよ?」
俺の思いとは裏腹に、はしゃいぎ楽しむ君
早咲きの桜なんかより、離任式の事なんかより……
楽しそうな君の姿が愛おしくて、たまらないんだ
ー君と見た景色ー
3/21/2025, 11:57:29 AM