水晶

Open App

『哀愁を誘う』

駅裏の細い路地を曲がると小さな骨董屋がある。会社と駅との往復に、少し遠回りしてこの店へ寄るのが私は好きだった。硝子越しに中を覗くと壺やら招き猫やら古い物が所狭しと並んでいて、店の一番奥にはおじいさんがいつも静かに座っていた。

店内を見るふりをして様子を伺う。
ピィピィピィ。玄関脇の籠の中で黒い小鳥が綺麗な声で鳴き始める。するとその声に誘われて、奥にいるもう一羽も鳴き始めた。
最初は分からなかったが、実は鳴いていたのはおじいさん。口を器用に動かして、見事なまでに小鳥の声を真似ていた。それに気付いたあの日から、私はこうしてここに通い続けている。
ピィピィピィ。小鳥はおじいさんに、おじいさんは小鳥に、掛け合う声が重なって実に楽しそうだ。

けれどそんな時間も終わりの時が来た。
いつしか奥の椅子には息子が座るようになり、掛け合いの友を失った小鳥は物悲しくその声を響かせるのだった。

11/5/2024, 3:55:21 AM