いぐあな

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300字小説

お礼参り

 木枯らしが吹くと思い出す。小学校の頃、通学路の途中にダンボールに入れられ捨てられた子猫。友達数人とコッソリ飼うつもりだったが、あっけなく親に見つかり『命の責任』について、みっちりと叱られた。
 その後、子猫は一時的にうちで保護し、動物病院を経て、貰われていった。

 今年も木枯らしが夜の町を吹き抜ける。就職し、実家を出で、生まれた町を離れた私の、一人暮らしのマンションのガラス窓を揺らす。
『にゃー』
 夜中、目が覚めると、布団の上によぼついた猫が。その額のハート型の黒い毛はあの時拾った猫そっくりで。
 あの時はありがとう。お陰で良い猫生を送れた。
 不思議とそう聞こえた鳴き声の後、布団から降り、猫は消えていった。

お題「子猫」

11/15/2023, 12:00:16 PM