向かい合わせに座る異形に、僕は恐怖心を抱かずには居られなかった。異形、正にそんな男(そもそも性別という概念があるのか…?)と先程から真っ白な部屋で二人きり、見つめ合っている。ここはどこなんだ。僕は確か、逃げて、逃げて、逃げた先で……何が、あったのだろうか、思い出せない。まるで何者かに記憶をさっぱり消されてしまったみたいだ。
「お前は、死んだ」
「は?」
僕は焦って口を抑えた。いくらなんでも「は?」は言い過ぎだったと思う。いや、だが考えてみろ。いきなり変な部屋に拉致されたかと思えば如何にも人ならざる者とにらめっこ、挙句の果てには「お前は死んだ」??これは夢なのか…?
「夢では無い。お前は死んだ」
「本当に、僕は死んだんですか…??」
「死んだ」
何の躊躇いも無く発せられる死亡宣告に、僕は驚きを通り越して引いた。というか誰?ここ何処?
「我は死神、貴様ら人間が死んだ時、魂を無事に黄泉へと導く仕事をしている」
「あ、心読んで答えてくれるんですね…」
「ちなみにここが黄泉に行く前に語り合うルームだ。貴様は生前、人との会話を避けていたようなので連れて来た」
確かに僕は生きている間、人間関係のトラウマが原因で何もかもから逃げてしまうようになった。僕が人と会話だなんて、所詮ビジネス会話ぐらいだった。だから此奴は僕を此処に連れて来て…もしかして僕が言えなかった事を聞く為に?僕を人と会話させる為に?もしそうなら、意外と良い奴なのかもしれない。
「貴様、精神状態もあって常に死と隣り合わせだったが……今や死と向かい合わせだな。ははは、あ、死ってのは死神である我の事な?」
前言撤回、此奴うぜぇわ。
8/25/2024, 2:24:54 PM