猫宮さと

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《太陽》

ある晴れた夏の日の事。

「暑い…暑過ぎるのよ…」

彼女が、溶けていた。

確かに、今日は暑さが殊更厳しい。空調を動かしていても効き目が薄い。
その熱は、黄金色の金属で出来ている帝都の空気を焼け付くような暑さに変えていた。
彼女はレースのカーテン越しに窓から差してくる太陽の光を恨みがましい目で見ながら、呟いていた。

「燃やすのは心だけでいいのに…何故にそこまで燃える…」

「大げさ…とも言い切れませんね…。」

僕もそれに合わせて、読んでいる本から窓へと視線を変えた。
彼女の言葉通り、窓の外には燃え盛る太陽が自らの存在を主張するかのように頭上に昇り詰めている。
その強い主張は、レースのカーテンなどでは到底止める事など出来はしない。
身体に滲む汗も、熱発散の働きよりもむしろ暑さを助長するように感じられる。

「太陽が私を殺しに来てる…お前に私の生殺与奪の権利は渡さないぞ太陽…」

彼女の発言内容が不穏になってきている。これは、限界が近そうだ。
ならば、と僕は読んでいる本を閉じて彼女に提案してみた。

「では、気分転換にかき氷でも食べに行きますか?」

すると、生気を失っていた彼女の目に途端に光が蘇った。

「行く! 行きます!!」

先程までの溶け具合から一転、音がするかのようにシャキッと立ち上がると、

「早速準備してきますね!」

と言い残し、大層晴れやかな顔でリビングを出ていった。

僕はと言えばそんな彼女の様子が楽しくて、面白くて、ついくつくつと笑っていた。
暑過ぎる太陽が、こんな幸せを運んでくるとは。
僕はその喜びを噛み締めながら、身支度のためにと自室に向かった。

8/6/2024, 11:02:18 PM