オアシス
社会人になって数年、社会の荒波に揉まれた私は行きつけの喫茶店に来ていた。来店を告げる鐘の音と共に店内へ足を進めれば、心を落ち着かせるコーヒーの香りと「いらっしゃい」というマスターの優しい声が聞こえてくる。
「マスター、カフェモカください」
「かしこまりました。今日もお疲れ様です」
疲れた時にはいつも、あの甘くほろ苦いカフェモカが飲みたくなる。マスターもそれをわかってくれていて、私がカフェモカを注文するといつも労わってくれる。
少しすれば上にホイップクリームとチョコレートソースがかけられたカフェモカが出てきた。それを飲み込めば、待ち望んだ甘さとほろ苦さに身体が歓喜する。
「はー、私はこのカフェモカのために生きてるのかも」
「おや、それは嬉しいですね」
マスターとの会話も楽しい。会社であった嫌なことをここでは思い出さなくて良い。冷えきった心がじんわりと温かくなるのを感じる。
残ったカフェモカを飲み干した私は、荷物を持って立ち上がった。
「ご馳走様でした。お会計お願いします」
お会計を済ませた私は扉を開けるとマスターへ振り返った。
「また来るね」
「はい、またのご来店お待ちしております」
来た時と同じベルを鳴らして扉が閉じられる。これで明日からの仕事も頑張れる。
ここは私の心のオアシスだ。
7/28/2025, 12:19:03 AM